氷見伏木信用金庫——寒ブリの港町で、信金は何を抱えているのか
預貸率25.8%、不良債権比率5.64%。富山湾の漁港・氷見と、港湾の町・伏木に根ざす信用金庫。その低い預貸率とやや高い不良債権を、漁業の町という産業構造と、能登半島地震の被災から読む。
富山県氷見市に本店を置く氷見伏木信用金庫は、地元で「ひみふしき信用金庫」と呼ばれています。富山湾に面した漁港の町・氷見と、かつて北前船で栄えた港湾の町・伏木(高岡市)、二つの土地の信用金庫が1981年に合併して生まれました。預金1,027億円、貸出金264億円、店舗5。富山県西部に根ざす、小ぶりな信用金庫です。
氷見は、富山湾に面した日本有数の漁港で、冬の寒ブリで全国に名を知られます。伏木は、高岡市の臨海部に位置し、古くから物流の拠点として栄えた港湾の町です。漁業と港湾という海の産業が、この地域の顔です。そして近年、能登半島地震の被災地ともなりました。この土地柄が、氷見伏木信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の預貸率は25.8%。集めた預金のうち、貸出に回しているのは4分の1ほどにとどまります。一方、不良債権比率は5.64%とやや高め。この「低い預貸率」と「やや高い不良債権」という組み合わせを、氷見伏木という土地から読むと、漁港の町ならではの事情が見えてきます。
まず、数字を並べる
氷見伏木信用金庫の預金は1,027億円、貸出金は264億円、預貸率25.8%。自己資本比率は18.65%、不良債権比率は5.64%。
| 預金 | 1,027億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 264億円 |
| 預貸率 | 25.8% |
| 自己資本比率 | 18.65% |
| 不良債権比率 | 5.64% |
| 店舗 | 5店・富山県西部 |
預金1,027億円に対し、貸出は264億円。集めた預金の4分の1ほどしか貸していません。
低い預貸率を、港町の産業から読む
預貸率25.8%という低さは、まず氷見伏木の産業構造から読めます。氷見は、富山湾に面した日本有数の漁港です。冬の寒ブリで全国に名を知られ、漁業とその関連産業が町の顔になっています。一方の伏木は、高岡市の臨海部に位置する港湾の町で、古くから物流の拠点として栄えてきました。
漁業や港湾を中心とする地域では、製造業の集積地や大都市圏のように、旺盛な設備投資の資金需要が次々と生まれるわけではありません。人口減少も進むなか、地元で貸出を大きく伸ばすのは簡単ではありません。集めた預金を貸出に変えられる範囲が、地域の資金需要に対して限られている——預貸率25.8%という低さは、貸す気がないからではなく、漁港・港湾の町という産業構造の表れと読み取れます。あふれた預金は、自然と有価証券などの運用に向かいます。これは、人口希薄な地域の信用金庫に共通して見られる姿でもあります。
5.64%を、漁業と震災から読む
では、やや高めの不良債権比率5.64%は、どう読めるでしょうか。ひとつは、漁業という産業の変動です。漁業は、漁獲量、魚の相場、燃料費に経営が大きく左右されます。近年は燃料価格の高騰が漁業者の収益を圧迫し、不漁の年もあります。こうした変動の大きい産業に貸す信用金庫では、債権の質に負荷がかかりやすいです。
そして、もうひとつ見逃せないのが、能登半島地震です。2024年初めに発生したこの地震では、震源に近い氷見市も被害を受けました。同信用金庫自身、経営の方針として「震災からの復興に向けた取引先の支援」「中心市街地の賑わい創出」を掲げています。地元の事業者が被災すれば、その経営の傷は、地元に貸す信用金庫の債権の質にもはね返ります。不良債権比率5.64%という数字には、漁業の変動に加えて、こうした震災の影響も及んでいると思われます。もちろん、不良債権比率には個別の事情も絡むため断定はできませんが、漁港の町が地震に見舞われたという事実は、この数字の背景として無視できません。
一方で、自己資本比率18.65%という一定の厚みは、こうした変動や災害の影響を受け止める備えになっています。低めの預貸率で資本を厚く保ち、地元の揺れに耐える——氷見伏木信用金庫の数字には、漁港の町に根ざす信金の、堅実な構えが見えます。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
氷見伏木信用金庫が地元に根ざす信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。氷見伏木信用金庫にとって、その「地元」とは、漁業と港湾を基幹とし、近年は震災にも見舞われた富山県西部の地域経済そのものです。地域の揺れに寄り添いながら、堅実に資本を保つ姿は、この土地に根ざす信金の選択といえます。
借り手にとっての意味
地元に根ざす信用金庫は、地域の事業者にとって身近な相談相手です。とりわけ、震災からの復興という局面では、地元の事情を知る信金の支援が、事業者にとって重要な意味を持ちます。一方で、預貸率が低めであることは、それだけで「借りにくい」を意味するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、港町の暮らしを映す
預貸率25.8%という低さも、不良債権比率5.64%というやや高さも、富山湾の漁港と、震災に見舞われた港町という土地の事情を映しています。寒ブリの町に根ざし、地域の揺れに堅実な構えで向き合う——氷見伏木信用金庫の数字は、この土地の暮らしそのものです。数字は、その金融機関がどんな町で、誰とともにあるかを、静かに語っています。
本紀行には、同じ富山県を本拠とする北陸銀行も登場している。北陸銀行は、北陸三県から北海道まで店舗網を広げる広域地銀(預貸率75.0%・店舗188)だ。富山県西部の漁港のまちに根ざし、預金の4分の1ほどしか貸さないこの氷見伏木信用金庫(預貸率25.8%・店舗5)と、北陸から北海道まで広がる北陸銀行とを並べると、同じ富山でも、特定の港町に深く根ざす小さな信金と、広域に展開する大きな地銀とで、地盤の広さも数字の形も大きく異なることが見えてくる。広域地銀の姿は、北陸銀行の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。富山県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、富山県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
沿革(氷見・伏木両信用金庫の合併)・経営方針(震災からの復興に向けた取引先支援等)に関する記述=氷見伏木信用金庫公開情報。
氷見の漁業(寒ブリ等)・伏木の港湾に関する記述、および能登半島地震による富山県西部の被害に関する記述=各種公的資料・公開情報。燃料価格の高騰は公知の事実。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。