預貸率の読み方
「低い=借りやすい」は誤解です。低い理由は一つではなく、理由によって借りやすさは正反対になります。数字の裏にある意味を読むことが、銀行選びの出発点になります。
預貸率とは何か
預貸率とは、集めた預金のうちどれだけを貸出に回しているかを示す数字です。計算式は単純で、貸出金 ÷ 預金 × 100。預金100に対して貸出が70なら、預貸率は70%になります。金融機関が「預かったお金を、どれだけ地域への融資に向けているか」を一目で映す指標として、決算資料や金融庁の公開データでも基本の一つに数えられています。
この数字をめぐって、よく聞く通説があります。「預貸率が低い銀行は、お金が余っているから借りやすい」。預金に対して貸出が少ない=貸す余地がある、だから自社にも回ってくるはずだ、という読み方です。直感的にはもっともらしく聞こえます。
だが、低い理由は一つではない
実務では、この通説をそのまま信じると足をすくわれます。預貸率が低いことには複数の理由があり、理由が違えば「借りやすさ」は正反対になるからです。低いという数字の表面だけを見て借りやすいと判断するのは、危うい。理由は大きく三つに分かれます。
一つめは、融資余力があり、貸出先を積極的に求めているケース。預金は集まっているのに貸し切れていないので、新たな借り手を歓迎する。このときの低い預貸率は、たしかに「借りやすい」の表れです。資金繰りに悩む側からすれば、狙い目と言える状態です。
二つめは、地域そのものに資金需要がないケース。人口が減り、企業が減り、設備投資をする借り手が地域に乏しい。融資の門は開いていても、そもそも借りに来る人がいないために預貸率が低く沈む。この場合、門が開いているかどうかより先に、地域経済が細っているという事情があります。借りやすさを語る以前の話です。
三つめは、有価証券運用などで十分に稼げていて、無理に貸す必要がないケース。預金を貸出に回さず、債券や株式などの運用で利益を上げている金融機関では、融資はあくまで選択肢の一つにすぎません。貸す動機が薄いため、貸すとしても返済の確実な先を厳選する。結果として、預貸率が低いのに、むしろ借りにくいという逆転が起こります。
三つめの典型を、数字で読む
三つめの「運用で稼ぐ型」がどういうものか、実在の数字で見てみます。高知信用金庫は、預金8,730億円に対し貸出金は813億円。預貸率は9.3%です。預かったお金のうち、貸出に回しているのは一割にも届きません。
| 預金 | 8,730億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 813億円 |
| 預貸率 | 9.3% |
| 自己資本比率 | 56.02% |
| 当期純利益 | 119億円(前年比+14.6%) |
| 利益の主な源泉 | 有価証券運用益 |
これだけを見れば「九割が貸せる余地として眠っている、相当に借りやすいはずだ」と読みたくなります。しかし同金庫の自己資本比率は56.02%。信用金庫の比率はおおむね10〜20%台ですから、突出した厚みです。そして2025年3月期の当期純利益は119億円で、前年比+14.6%。この利益には有価証券運用益が寄与しています。
並べてみると、構図が見えてきます。預金の9.3%しか貸さず、それでも運用益で119億円を稼ぐ。融資に頼らなくても利益が出る構造です。とすれば、この9.3%という低さは「貸す余裕があって借りやすい」のではなく、むしろ「貸す動機が薄い」ことの表れと読み取れます。融資をあてにせずとも経営が回る相手は、わざわざ無理に貸す理由がない。借り手はおのずと厳選され、ハードルはむしろ高くなる——そう考えるほうが、この数字とは整合します。
預貸率は、出発点にすぎない
ここまでを整理すると、預貸率はその金融機関の貸出スタンスをうかがう「入口」の指標であって、借りやすさを保証する数字ではありません。低い数字を見たら、その低さがどの理由から来ているのかを、個別に確かめること。融資余力なのか、地域の資金需要の乏しさなのか、運用型ゆえの低さなのか。同じ数字でも、自社にとっての意味はまるで変わります。
確かめるためには、利益構造(何で稼いでいるか)、自己資本比率の水準、地域の経済動向などを合わせて見る必要があります。各金融機関のディスクロージャー資料(公開情報)や決算報道が手がかりになります。数字を鵜呑みにせず、その裏にある理由まで自分の目で見にいく。資金繰りを考えるうえでは、この姿勢そのものが力になります。個別の金融機関がなぜその数字になっているのかは、今後それぞれ取り上げていく予定です。
出典:預貸率・自己資本比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
当期純利益・有価証券運用益=高知信用金庫2025年3月期決算(同金庫発表・報道)。