多摩信用金庫——預金3兆円の多摩の雄は、なぜ3分の1しか貸さないのか
預貸率36.6%、預金3.3兆円。立川市に本店を置く多摩信用金庫。多摩地区を代表する巨大信金「たましん」が、預金の3分の1ほどしか貸さない数字を、住宅都市・多摩という土地から読みます。
東京都立川市に本店を置く多摩信用金庫は、地元で「たましん」と呼ばれる信用金庫です。預金3兆2,742億円、貸出金1兆1,967億円、店舗81。東京・多摩地区を代表する、信用金庫のなかでも屈指の規模を持つ巨大信金です。多摩地区の市部を中心に、広く店舗網を張り巡らせています。
本拠地の多摩地区は、東京都のうち23区を除いた西側の地域です。立川・八王子・町田・府中などの都市を抱え、戦後に多くの団地やニュータウンが開発された、首都圏有数の住宅地域です。23区へ通勤する人々が暮らすベッドタウンとしての性格が強く、人口は多いものの、23区のように大企業の本社や巨大なオフィス街が集中しているわけではありません。商業・サービス業や中小製造業、そして膨大な数の個人世帯が広がっています。この、人口の多い住宅都市という地盤が、多摩信用金庫の数字を読む鍵になります。
多摩信用金庫は、多摩地区の複数の信用金庫が合併を重ねて現在の姿となりました。地域に深く根ざし、巨額の預金を集める一方で、その数字には一つの際立った特徴があります。預貸率36.6%——集めた預金の3分の1ほどしか、貸出に回していないのです。
まず、数字を並べる
多摩信用金庫の預金は3兆2,742億円、貸出金は1兆1,967億円、預貸率36.6%。自己資本比率は8.65%、不良債権比率は5.47%。中小企業等向けの貸出先は5万9千件を超えます。
| 預金 | 3兆2,742億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 1兆1,967億円 |
| 預貸率 | 36.6% |
| 自己資本比率 | 8.65% |
| 不良債権比率 | 5.47% |
| 中小企業等向け貸出先 | 59,796件 |
| 店舗 | 81店 |
預金3.3兆円・預貸率36.6%。巨額の預金と、低い貸出。その差を土地から読む。
36.6%を、住宅都市・多摩から読む
預貸率36.6%は、信用金庫のなかでもかなり低い水準です。3兆円を超える巨額の預金を集めながら、貸出に回っているのはその3分の1ほど。あふれた預金は、有価証券などの運用に向かっています。なぜ、これほど貸出が伸びないのか。その答えは、多摩という土地の性格にあります。
多摩地区は、人口の多い住宅都市です。23区へ通勤する人々が暮らすベッドタウンには、給与所得者の世帯が数多く、預金は潤沢に集まる。一方で、住宅地域には、大都市の中心部のように旺盛な資金需要を持つ企業が密集しているわけではありません。多摩信用金庫が貸す相手は、地域の中小・零細事業者、商店、そして個人の住宅ローンが中心です。預金は豊富に集まるが、それに見合うだけの貸出先がない——住宅都市という地盤の、預金と貸出の構造的なギャップが、預貸率36.6%という低さの背景にあると読めます。集めた預金をすべて地域に貸し切れないことは、たましんの怠慢ではなく、住宅都市という土地そのものが生む数字です。
注目すべきは、不良債権比率が5.47%とやや高めなことです。住宅都市の地域経済を担う中小・零細事業者には、人口減少や商店街の衰退といった課題を抱える先もあり、長く付き合ってきた借り手の事情が、ある程度この比率に表れていると思われます。低い預貸率は「貸せる先を慎重に選んでいる」結果とも読めますが、それでも一定の焦げ付きは避けられない。もちろん、これらの比率には経営方針や景気も絡むため断定はできませんが、人口は多いが企業の資金需要は限られる住宅都市という地盤を抜きに、この数字は読めません。
同じ東京で、預金を超えて貸す銀行と並べてみる
本紀行には、同じ東京都の東日本銀行も登場しています。東日本銀行は、横浜銀行と組んだグループの資金力を背景に、預金を超えて貸す(預貸率108.0%)第二地銀でした。巨額の預金を抱えながら3分の1しか貸さない多摩信用金庫(預貸率36.6%)と、預金を超えて貸す東日本銀行(預貸率108.0%)とを並べると、同じ東京を地盤としながら、住宅都市に預金を蓄える巨大信金と、グループの力で攻める第二地銀とで、預貸率がこれほど分かれることが見えてきます。預金を超えて貸す銀行の姿は、東日本銀行の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
地域に深く根ざす巨大信金は、多摩の中小事業者や個人にとって、もっとも身近な金融機関です。潤沢な預金量と安定した経営は、地域の暮らしと事業を支える基盤になっています。預貸率の低さは地盤の事情によるもので、それが個別の融資の可否を一律に決めるわけではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、住宅都市の構造を映す
預金3.3兆円という規模と、預貸率36.6%という低さは、人口の多い住宅都市・多摩に根ざし、潤沢な預金を集めながらも、それに見合う貸出先の限られた土地で経営してきた巨大信金の姿を映しています。資金需要のあふれる都心の金融機関もあれば、多摩信用金庫のように預金が貸出を大きく上回る住宅都市の信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地に立っているかを語ります。多摩信用金庫の数字は、住宅都市・多摩を支える巨大信金「たましん」の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。東京都の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、東京都の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
多摩信用金庫の規模・沿革(多摩地区を代表する屈指の規模の信用金庫、複数の信用金庫の合併を経て現在の姿となったこと、立川市本店、多摩地区を地盤とすること)に関する記述=多摩信用金庫および各種公開情報にもとづく。
多摩地区の地理と性格(東京都のうち23区を除く西側地域、立川・八王子・町田・府中等の都市、団地・ニュータウンの開発された首都圏有数の住宅地域、23区への通勤者が多いこと)に関する記述=各種公開情報。
東日本銀行の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。