城南信用金庫——数字でなく人を見て貸す巨大信金は、創業期のマザーハウスに貸した
預貸率58.5%、預金4.0兆円、全国屈指の規模。品川区に本店を置く城南信用金庫。投機に貸さず、数字でなく人と事業を見て貸す「小原哲学」で知られる巨大信金が、創業まもないマザーハウスに貸した姿を読みます。
東京都品川区に本店を置く城南信用金庫は、全国の信用金庫のなかでも屈指の規模を誇る大手信金です。預金4兆238億円、貸出金2兆3,545億円、店舗86。かつては全国の信用金庫で預金量・貸出金量ともに1位を続け、いまも全国有数の規模を保つ巨大信金です。営業地域の中心は東京・城南エリア(品川・大田・目黒など)で、店舗網は港区から神奈川の湘南・厚木方面にまで及びます。
城南信用金庫が「ものすごくユニーク」と評されるのは、規模の大きさゆえではありません。その際立った経営哲学ゆえです。投資信託や保険、デリバティブといった顧客にリスクのある金融商品を扱わず、消費者向けカードローンも手がけない。バブル期には、株式やゴルフ場用地といった投機目的の資金を一切貸さなかった。「カネを貸すより、人を見て貸せ」「貸すも親切、貸さぬも親切」——歴代を導いてきた小原鐵五郎の経営哲学、いわゆる「小原哲学(小原鐵学)」が、いまもこの信金の背骨を成しています。この、数字や担保でなく人と事業の本質を見て貸すという哲学が、城南信用金庫の数字を読む鍵になります。
まず、数字を並べる
城南信用金庫の預金は4兆238億円、貸出金は2兆3,545億円、預貸率58.5%。自己資本比率は11.09%、不良債権比率は3.69%。中小企業等向けの貸出先は5万6千件を超えます。
| 預金 | 4兆238億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 2兆3,545億円 |
| 預貸率 | 58.5% |
| 自己資本比率 | 11.09% |
| 不良債権比率 | 3.69% |
| 中小企業等向け貸出先 | 56,663件 |
| 店舗 | 86店 |
預金4兆円超・預貸率58.5%。巨大な規模と、慎重な貸出。その両立を哲学から読む。
58.5%を、「小原哲学」から読む
預貸率58.5%は、預金4兆円という規模の信金としては、控えめな水準です。集めた預金の6割弱を貸出に回し、残りは国債などの堅実な運用と手元資金にあてている。これだけの預金量がありながら、無理に貸出を伸ばさない——この慎重さは、投機に貸さず、リスク商品を扱わないという小原哲学の延長線上にあります。たくさん集めたから貸す、ではない。貸すに値する相手にだけ貸す。この姿勢が、巨大な規模と控えめな預貸率の両立として数字に表れていると読めます。
では「貸すに値する相手」を、城南信用金庫はどう見極めるのか。それを象徴する一つの融資が知られています。
創業まもないマザーハウスに、なぜ貸したか
マザーハウスは、山口絵理子氏が2006年に立ち上げた会社です。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、バングラデシュをはじめ、スリランカやミャンマーなど途上国の自社工場・提携工房で、ジュート(黄麻)やレザーのバッグなどを生産しています。安く作らせる場所として途上国を使うのでなく、現地の素材と職人の技術を生かし、正当な対価を払って「世界に通用する品質」のものづくりをする——そういう会社です。創業当時は、実績も担保もない、若い起業家の理念先行のベンチャーでした。
その創業まもないマザーハウスに、早い段階で融資したのが城南信用金庫だったと伝えられています。決算書のスコアや担保の有無でなく、経営者の人となり、実際の活動、そして「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という強い信念とビジネスとしての成長性に共感して貸したとされます。財務の数字だけを見れば、創業期の理念先行ベンチャーは貸しにくい相手です。それでも貸した。これは「カネを貸すより人を見て貸せ」という小原哲学を、そのまま実践した一例でした。後にマザーハウスが国内外に多くの店舗を構えるブランドへ育ったことは、その融資判断が正しかったことを、結果として証明しています。
「よい仕事おこしフェア」と、創業支援の仕組み
人と事業を見て貸すという哲学は、個別の融資にとどまりません。城南信用金庫は、東日本大震災の翌2012年、被災地の復興支援を目的に「よい仕事おこしフェア」を始めました。全国47都道府県の信用金庫のネットワークを通じて、普段は出会わない中小企業同士を結びつける大規模な商談会です。城南信用金庫はその実行委員会の事務局を担い、信金ネットワークを「日本を明るく元気にする」ための仕組みへと育ててきました。
創業支援にも厚みがあります。本店の「城南なんでも相談プラザ」には、中小企業診断士・税理士・販売士といった専門家が常駐し、城南信用金庫との取引の有無にかかわらず、創業期の事業計画や販路開拓の相談に応じています。蓮沼支店には創業支援施設「Jクリエイトプラス」を併設。背景には、営業エリアの大田区で中小製造業の数がピーク時の約3分の1にまで激減したという現実があり、次の事業の芽を地域に育てようとする姿勢がうかがえます。マザーハウスへの融資は、こうした「創業期の事業を、数字より先に人と理念で支える」城南信用金庫の姿勢の、象徴的な一例だったといえます。
同じ東京で、攻めて貸す都市型地銀と並べてみる
本紀行には、同じ東京都のきらぼし銀行も登場しています。きらぼし銀行は、三行が合併して生まれた都市型地銀で、預金の9割超を東京の中小に貸す(預貸率90.6%)積極的な銀行でした。巨大な預金を抱えながら預貸率58.5%と慎重に構える城南信用金庫と、預金の9割超を貸して攻めるきらぼし銀行とを並べると、同じ東京の中小を相手にしながら、哲学で貸す相手を選ぶ巨大信金と、積極的に貸す都市型地銀とで、姿勢がこれほど分かれることが見えてきます。よく貸す都市型地銀の姿は、きらぼし銀行の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
数字や担保でなく人と事業を見て貸す金融機関は、実績の浅い創業期の事業者や、理念で勝負する起業家にとって、心強い相手になりえます。とりわけ城南信用金庫のように創業支援の仕組みを厚く備えた信金は、相談の入口としての存在感が大きい。一方で、預貸率が控えめなのは投機に貸さない慎重さの表れでもあり、それが個別の融資の可否を一律に決めるわけではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、貫いてきた哲学を映す
預金4兆円超という規模と、預貸率58.5%という慎重さの両立は、投機に貸さず、人と事業の本質を見て貸すという「小原哲学」を貫いてきた信金の姿を映しています。規模を生かして積極的に貸す金融機関もあれば、城南信用金庫のように貸す相手を哲学で選ぶ金融機関もある。創業期のマザーハウスに貸した一件は、その哲学が生きていることの証でした。数字は、その金融機関が何を信じて貸してきたかを語ります。城南信用金庫の数字は、人を見て貸すことを貫く巨大信金の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの哲学と歩みの事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。東京都の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、東京都の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
城南信用金庫の規模・沿革(全国の信用金庫で長く預金・貸出量1位を続け現在も全国有数であること、営業地域、小原鐵五郎の経営哲学「小原哲学」、投機に貸さずリスク商品を扱わない方針)に関する記述=城南信用金庫の開示資料・各種公開情報にもとづく。
創業まもないマザーハウスへの融資の経緯(人となり・活動・「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という信念と成長性に共感して融資したこと)に関する記述=取材当時に公表された城南信用金庫のPR資料・報道等の公開情報にもとづく。
マザーハウスの事業(山口絵理子氏が2006年に創業、バングラデシュ・スリランカ・ミャンマー等の自社工場・提携工房でジュートやレザーのバッグ等を生産)に関する記述=各種公開情報。
「よい仕事おこしフェア」(2012年に東日本大震災の復興支援を目的に開始、城南信用金庫が実行委員会事務局を担う全国信金ネットワークの商談会)、創業支援(城南なんでも相談プラザ、Jクリエイトプラス、大田区の中小製造業の減少)に関する記述=城南信用金庫および各種公開情報。
きらぼし銀行の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。