阿南信用金庫——LEDの街で、信金は誰に貸しているのか
不良債権比率10.07%、預貸率59.4%。世界的なLED企業の城下町・徳島県阿南市に根ざす阿南信用金庫。やや高い不良債権を、製造業の下請けと漁業という土地の産業から読む。
徳島県阿南市に本店を置く阿南信用金庫は、地元で親しまれる、徳島県南部の信用金庫だ。預金1,080億円、店舗8。規模は大きくないが、ある世界的な企業の地元に根ざしているという、際立った特徴を持つ。
阿南市は、白色LEDで世界的に知られる日亜化学工業の本拠地である。青色LEDの実用化で世界を変えたこの企業は、本社も主力工場も阿南市に置き、LED・半導体レーザー・電池材料を世界トップクラスのシェアで生産している。いわば阿南は「LEDの街」だ。同時に、太平洋に面した阿南は漁業の町でもあり、地元の漁協が水産業を営んでいる。この「製造業の城下町であり、漁業の町でもある」という土地柄が、阿南信用金庫の数字を読む鍵になる。
この信用金庫の数字で目を引くのは、不良債権比率10.07%という、かなり高めの水準だ。預貸率は59.4%で、集めた預金の6割近くを貸出に回している。世界企業の地元なのに、なぜ不良債権が高いのか。この一見ちぐはぐな組み合わせを、阿南という土地から読むと、信用金庫という制度の本質が見えてくる。
まず、数字を並べる
阿南信用金庫の預金は1,080億円、貸出金は641億円、預貸率59.4%。自己資本比率は8.51%、不良債権比率は10.07%。中小企業等向けの貸出先は3,455件。
| 預金 | 1,080億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 641億円 |
| 預貸率 | 59.4% |
| 自己資本比率 | 8.51% |
| 不良債権比率 | 10.07% |
| 中小企業等向け貸出先 | 3,455件 |
| 店舗 | 8店 |
世界的LED企業の地元。なのに不良債権比率10.07%。この組み合わせを読む。
世界企業の地元なのに、なぜ不良債権が高いのか
「世界的なLED企業の地元なら、地域経済は潤い、銀行も健全なはずだ」——そう思えるかもしれない。だが、ここに信用金庫という制度の本質がある。
日亜化学工業のような大企業は、信用金庫の会員になれない。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、事業者には規模の制限があって、大企業は対象外だからだ。つまり、阿南信用金庫が貸す相手は、日亜化学そのものではなく、その周辺にいる地元の中小事業者——下請けや関連の部品・加工業者、従業員や街の暮らしを支える商店・飲食・サービス業、そして漁業者などになる。
ここに、不良債権比率10.07%という数字の背景が見えてくる。世界企業の城下町であっても、信金が向き合うのは、その足元で働く小さな事業者たちだ。大企業の事業環境の変化は、下請けや関連の中小事業者の受注に波及する。加えて、阿南は漁業の町でもあり、漁業は漁獲や相場、燃料費に左右されやすい。こうした、大企業の動向に左右される下請け中小と、変動の大きい漁業に貸す信用金庫では、不良債権比率が高めに出やすいと考えられる。自己資本比率が8.51%と、信金としては薄めであることも、リスクを取って地元に貸し込んできた一面を映していると思われる。もちろん、不良債権比率には個別の事情も絡むため断定はできないが、「世界企業の地元=健全」という単純な図式では、この数字は読めない。
城下町に貸すということ
大企業の城下町に立つ信用金庫は、独特の立場にある。街の経済の中心には大企業があるが、信金はそこには貸せない。代わりに、その大企業を取り巻く中小事業者の層に資金を流す。大企業が街に富をもたらす一方、その恩恵に十分あずかれない小さな事業者もいる。信金は、まさにその層に向き合っている。預貸率59.4%という、貸出に前向きな数字は、世界企業の足元で働く地元の事業者を、信金が支えようとしてきた証ともいえる。
借り手にとっての意味
大企業の地元であっても、その下請けや関連の中小事業者、地域の商店や漁業者にとって、身近な貸し手は地元の信用金庫だ。阿南信用金庫のように、世界企業の足元の事業者に向き合ってきた信金は、その層の事情を知る相談相手になりうる。ただし、不良債権比率の高さは、その地域の中小事業者が課題を抱えていることの裏返しでもある。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理している。
数字は、城下町の足元を映す
不良債権比率10.07%という数字は、世界的なLED企業の地元という華やかな印象とは裏腹に、その足元で働く中小事業者と漁業者の現実を映している。大企業には貸せず、その周辺の小さな事業者に向き合う——信用金庫という制度の本質が、この数字に表れている。数字は、その金融機関がどんな土地で、誰に向き合ってきたかを語る。
本紀行には、同じ徳島県の阿波銀行も登場している。阿波銀行は、藍商の富を礎とする、県内トップの地方銀行だ。領域を限って中小・零細に深く貸すこの阿南信用金庫と、県全域を相手に預金の7割超を貸す阿波銀行(預貸率75.1%・預金3.3兆円)とを並べると、同じ徳島県でも、特定の地区の零細に密着する信金と、県全体を覆う大きな地銀とで、規模も役割も大きく異なることが見えてくる。県内トップ地銀の姿は、阿波銀行の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。徳島県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、徳島県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
日亜化学工業の阿南市への立地・LED等の事業に関する記述、および阿南市の漁業に関する記述=各種公開情報。
信用金庫の地区・会員資格(大企業は会員になれないこと等)に関する記述=信用金庫法、および金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。