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湘南信用金庫——軍港のまちで、薄い自己資本で貸す信金

神奈川県横須賀市に本店を置く信用金庫の預貸率は58.3%、自己資本比率は6.54%。信金として高めの預貸率と、薄めの自己資本という組み合わせは、軍港都市と造船の来歴を持つ三浦半島で、都市近郊らしく貸す姿勢を映しています。

ニホン銀行紀行 ・ 神奈川県

神奈川県南東部、三浦半島の横須賀市に本店を置く湘南信用金庫は、地元で「しょうしん」と呼ばれています。預金1兆3,268億円、貸出金7,740億円、店舗47。横須賀を核に、三浦半島から横浜方面へと支店網を広げる信用金庫です。

本店のある横須賀市は、近代以来の軍港都市です。明治に海軍の拠点が置かれて以来、いまも海上自衛隊と米海軍の基地を抱え、その来歴は浦賀ドックに代表される造船業とともにありました。一方で、首都圏に近い立地から住宅地・ベッドタウンとしても発展し、三浦半島の先には観光地や漁港も広がります。ただし近年は、半島全体で人口の高齢化が進んでいます。軍港・造船という重い来歴と、高齢化の進む都市近郊——この二つの顔を持つ土地柄が、湘南信用金庫の数字を読む鍵になります。

この信用金庫の預貸率は58.3%で、信用金庫としては高い部類に入ります。一方、自己資本比率は6.54%と、信金のなかではやや薄めです。よく貸し、自己資本は薄め——この組み合わせを、都市近郊という立地から読んでいきます。

まず、数字を並べる

湘南信用金庫の預金は1兆3,268億円、貸出金は7,740億円、預貸率58.3%。自己資本比率は6.54%。不良債権比率は5.30%。

湘南信用金庫(令和7年3月末)
預金1兆3,268億円
貸出金7,740億円
預貸率58.3%
自己資本比率6.54%
不良債権比率5.30%
中小企業等向け貸出先30,276先
店舗47店

中小企業等への貸出先は約3万先。都市近郊で幅広く、よく貸している信金です。

58.3%を、都市近郊という立地から読む

信用金庫で預貸率58.3%は、高い水準です。多くの信用金庫が30〜40%台にとどまるなかで、6割近くを貸し出せるのは、貸す相手が豊富にいるからです。

その背景にあるのが、首都圏に近い都市近郊という立地です。横須賀から横浜方面にかけては、住宅・商業・サービスが集まり、中小事業者の資金需要が厚い地域です。貸す動機が薄いから貸さないのではなく、貸す先が豊富にあるから貸せる——湘南信用金庫の高い預貸率は、まずそう読めます。中小企業等への貸出先が3万を超えるという数字も、その裾野の広さを示しています。

自己資本6.54%という、攻めの裏側

一方で、自己資本比率6.54%は、信用金庫のなかではやや薄めです。山あいで守りに徹する信金が自己資本を厚く積むのとは、対照的な姿勢に見えます。

これは、よく貸す信金の裏側として読むことができます。預金を運用に回さず貸出に積極的に振り向ければ、そのぶん自己資本比率は相対的に薄く出やすくなります。都市近郊の豊富な貸し先に積極的に貸す——その攻めの姿勢が、薄めの自己資本という形で表れているとも読めます。ただし、不良債権比率5.30%とあわせて見ると、よく貸すぶん焦げ付きもそれなりに抱えており、薄い自己資本でそれを受け止めている構図でもあります。攻めには攻めの備えが要る、という意味で、注視すべき組み合わせではあります。もっとも、自己資本比率も不良債権比率も、景気や引当方針、決算期ごとの事情に左右されるため、一時点の数字だけで経営の健全性を断じることはできません。あくまで一つの読み筋です。

高齢化の進む半島で貸すということ

三浦半島は、首都圏に近いベッドタウンであると同時に、人口の高齢化が進む地域でもあります。高齢化が進む土地で都市近郊らしく積極的に貸すことは、住宅や事業の世代交代、後継者不足といった課題と向き合うことでもあります。不良債権比率5.30%という数字の背には、そうした地域の人口動態も静かに関わっていると思われます。軍港・造船という重い来歴を持つこのまちで、湘南信用金庫は、変わりゆく地域経済に貸し続けています。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

湘南信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。

この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。湘南信用金庫にとって、その「地元」とは、軍港都市の来歴を持ちながら高齢化の進む三浦半島と、その先の都市近郊の地域経済です。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠のなかで、この信金は都市近郊らしく積極的に貸す道を選んできた、と読めます。

借り手にとっての意味

湘南信用金庫のように、都市近郊で高い預貸率を保つ信用金庫は、地域の中小事業者にとって、実際によく貸している相手です。預貸率が高いということは、それだけ貸す体力と意欲がある、ということでもあります。ただし、それでも審査は審査であり、預貸率の数字だけで「借りやすさ」を測れるわけではありません。預貸率という指標の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、立地の選択を映す

自己資本を厚く積んで守る信金もあれば、運用益で稼ぐ信金もあります。そして湘南信用金庫のように、都市近郊の豊富な貸し先に積極的に貸し、薄めの自己資本でそれを受け止める信金もあります。預貸率と自己資本比率という二つの数字の組み合わせは、その金融機関がどんな立地で、攻めと守りのどちらに重心を置いてきたかを映す鏡です。軍港のまちの信金が示す58.3%と6.54%は、都市近郊で貸すことを選んだ姿勢の表れと読めます。

本紀行には、同じ神奈川県の相愛信用組合も登場しています。相愛信組は、丹沢のふもと・愛甲郡に本店を置く、店舗4・預金419億円という小規模な信用組合でした。軍港都市の来歴を持ち都市近郊で幅広く貸すこの湘南信用金庫(預貸率58.3%・中小先約3万)と、県央部の限られた範囲で小さな借り手に貸す相愛信用組合(預金419億円・店舗4)とを並べると、同じ神奈川県でも、都市近郊で多くの中小に貸す大型信金と、限られた範囲の小さな借り手に密着する小信組とで、規模も役割も大きく異なることが見えてきます。丹沢のふもとの小さな信組の姿は、相愛信用組合の記事もあわせてどうぞ。

各地の金融機関には、それぞれの土地の経済と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。神奈川県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、神奈川県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
横須賀市・三浦半島の歴史と経済(軍港・造船・住宅地・高齢化)に関する記述=横須賀市・神奈川県・各種公開情報等。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=信用金庫法10条1項、および金融庁・全国信用金庫協会の公開資料等。

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