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広島市信用組合——「融資一本」を貫く信組は、なぜ預金の9割を貸すのか

預貸率91.1%、預金8,839億円。「あくまでも融資一本」を掲げ、運用に頼らず貸すことに徹する広島市信用組合。信組として屈指の規模と高い預貸率を、その独自の経営方針から読む。

ニホン銀行紀行 ・ 広島県

広島県広島市に本店を置く広島市信用組合は、地元で「シシンヨー」と呼ばれる信用組合だ。預金8,839億円は、信用組合としては全国でも屈指の規模である。「広島市」を名に冠するが、営業区域はいまや広島県全域に広がる。店舗35。地方の小さな協同組織というイメージとは、少し違う姿をしている。

この信用組合を語るうえで欠かせないのは、土地よりもまず、その際立った経営方針だ。株式や投資信託といった運用には手を出さず、保険などのリスク商品も扱わない。やることは融資ひとつ——「あくまでも融資一本」を掲げ、計算できる経営に徹するという。この独自の方針が、広島市信用組合の数字を読む鍵になる。

その方針は、数字にはっきりと表れている。預貸率91.1%。集めた預金の9割を貸出に回している。これまで本紀行で見てきた、預金の多くを運用に回す信金・信組とは、正反対の姿だ。なぜ、これほど貸せるのか。その答えは、土地の事情というより、この組織が選んだ「貸すことへの徹底」にある。

まず、数字を並べる

広島市信用組合の預金は8,839億円、貸出金は8,049億円、預貸率91.1%。自己資本比率は12.02%、不良債権比率は1.98%と低い。中小企業等向けの貸出先は1万8千件を超える。

広島市信用組合(2025年3月期)
預金8,839億円
貸出金8,049億円
預貸率91.1%
自己資本比率12.02%
不良債権比率1.98%
中小企業等向け貸出先18,267件
店舗35店

預金の9割を貸す。運用に頼らない「融資一本」の経営を、数字から読む。

91.1%を、「融資一本」の経営から読む

預貸率91.1%は、信用組合のなかでも際立って高い。本紀行でこれまで見てきた信金・信組の多くは、預貸率が3割から5割ほどで、あふれた預金を有価証券などの運用に回していた。広島市信用組合は、その対極にある。

この組合は、株式運用や投資信託、NISA、保険といったリスク商品を扱わないことを公言している。理事長は、リスク商品は顧客とのトラブルにつながるとして、「あくまでも融資一本」と強調しているという。運用に逃げ道を持たないということは、集めた預金を貸出として地域に流すしかない、ということでもある。融資の判断は原則として数日以内という速さで決裁し、不良債権を抱え込まない処理を徹底することで、貸すことに集中する体制を保ってきたとされる。預貸率91.1%という数字は、この「貸すことへの徹底」の結果と読める。

注目すべきは、これだけ積極的に貸しながら、不良債権比率は1.98%と低く保たれている点だ。たくさん貸せば焦げ付きも増えやすいのが普通だが、この組合は規模を伸ばしつつ健全性を保っている。融資に集中するからこそ審査や回収のノウハウが蓄積される、という好循環があるのかもしれない。もちろん、不良債権比率には個別の事情や処理の方針も絡むため一概には言えないが、「貸す」と決めた組織が、規模と健全性を両立させている例として、この数字は際立っている。

信用組合という形で、ここまでやる

広島市信用組合は、信用金庫ではなく信用組合だ。信用組合は、中小企業等協同組合法などにもとづく協同組織で、本来はより小規模で地域に密着した存在であることが多い。だがこの組合は、預金8,839億円という、並の地方銀行に迫る規模を、信用組合という形のまま築き上げた。全国の信用組合で唯一、格付会社から格付けを取得しているのも、その規模と経営への自負の表れといえる。協同組織という枠のなかで、ここまで「貸す」ことを徹底した例は珍しい。

借り手にとっての意味

運用に頼らず融資に徹する金融機関は、地域の事業者にとって「貸してくれる先」としての存在感が大きい。預貸率の高さと判断の速さは、資金を必要とする事業者にとって心強い目安にはなる。ただし、預貸率の高さがそのまま「誰でも借りやすい」を意味するわけではなく、審査の基準は別にある。預貸率という数字をどう読むかは、預貸率の読み方であらためて整理している。

数字は、選んだ哲学を映す

預貸率91.1%という数字は、土地の事情というより、この組織が選んだ「融資一本」という哲学そのものを映している。運用に逃げず、貸すことに徹し、それでいて健全性を保つ——同じ信用組合でも、守りを固める組合があれば、貸すことを貫く組合もある。数字は、その金融機関が何を信じて経営してきたかを語る。広島市信用組合の数字は、一つの明快な哲学の記録だ。

同じ広島県を地盤とする広島銀行(預貸率85.8%・預金9.3兆円)も、本紀行に登場している。中国地方の雄と呼ばれる広島銀行も預貸率85.8%とよく貸しているが、この広島市信用組合は預貸率91.1%と、それをさらに上回る。県全域を相手にする地銀と、「融資一本」を貫く信組と、同じ広島で立場の異なる金融機関がそれぞれの流儀で「よく貸す」を実践している。中国地方の雄たる地銀の姿は、広島銀行の記事もあわせてどうぞ。

各地の金融機関には、それぞれの土地や哲学の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。広島県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、広島県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
広島市信用組合の経営方針(運用商品を扱わず融資に集中する方針、融資判断の速さ、格付けの取得、営業区域等)に関する記述=同組合の開示資料・各種公開情報にもとづく。理事長の発言の趣旨は公開情報による。
信用組合の制度(中小企業等協同組合法等にもとづく協同組織であること)に関する記述=関係法令および金融庁等の公開資料にもとづく一般的な説明。

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