利根郡信用金庫——山あいの果樹と観光のまちで、守りに徹する信金
群馬県北部、市域の8割が森林という沼田市に本店を置く信用金庫。店舗16、預金1,846億円と今回の紀行で最も小さく、不良債権比率は6.23%と最も高い。その数字は、山あいの果樹・観光・林業の郡で貸すことの重みを映しています。
群馬県の最北部、沼田市に本店を置く利根郡信用金庫は、地元で「とねしん」と呼ばれています。預金1,846億円、貸出金831億円、店舗16。利根沼田と呼ばれる群馬県北部の地域を地盤とする、小さな信用金庫です。
本店のある沼田市は、市域のおよそ8割が森林という山あいのまちです。標高差の大きい内陸性の気候を生かして、りんご・ぶどう・さくらんぼといった果樹や、高原野菜が首都圏向けに育てられています。利根沼田の一帯は、谷川岳をはじめとする山々と温泉、スキー場を擁する首都圏近郊の観光リゾート地でもあり、林業も土地に根づいています。果樹・観光・林業——いずれも自然と季節に左右される産業です。この山あいの土地柄が、利根郡信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の預貸率は45.0%。集めた預金の4割半ばを貸出に回しています。注目したいのは、店舗16・預金1,846億円という今回の紀行で最も小さい規模と、6.23%という最も高い不良債権比率、そして自己資本比率の組み合わせです。
まず、数字を並べる
利根郡信用金庫の預金は1,846億円、貸出金は831億円、預貸率45.0%。自己資本比率は9.54%。不良債権比率は6.23%。
| 預金 | 1,846億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 831億円 |
| 預貸率 | 45.0% |
| 自己資本比率 | 9.54% |
| 不良債権比率 | 6.23% |
| 中小企業等向け貸出先 | 4,925先 |
| 店舗 | 16店 |
店舗16・中小先約5千。山あいの郡に根を張る、小さな信金です。
6.23%を、山あいの産業から読む
不良債権比率6.23%は、運用型の信用金庫(高知信用金庫0.47%)と比べれば、際立って高い数字です。だが、これを「危うい」と読む前に、貸す相手の産業と土地の事情を見ておきたいと思います。
利根郡信用金庫が貸す相手の多くは、利根沼田の山あいで暮らす果樹農家や、観光業、林業の事業者、それを支える地元の小さな商いです。果樹は天候と価格に、観光は景気と季節に、林業は長い時間軸の相場に左右される、いずれも振れ幅の大きい産業です。加えて、山あいの郡は人口減少と高齢化が進みやすく、地域経済そのものが縮みがちな環境にあります。こうした振れ幅の大きい産業と、縮む地域経済のなかで貸し続けてきたことが、6.23%という比率の背にあると読むのが、実態に近いでしょう。
もっとも、不良債権比率には個別の大口先の事情や引当方針も絡むため、「山あいの産業の不振がそのまま比率に出ている」と言い切ることはできません。ただ、自然と季節に左右される産業に、縮む地域で貸す小さな信金であれば、その焦げ付き比率には土地の厳しさが映りやすい、とまでは言えると思われます。逃げずにこの地に貸し続けてきたからこそ、この水準になっている——そういう読み筋です。
小さくても、守りながら続ける
振れ幅の大きい産業に、縮む地域で貸す。それでも経営を続けていくには、焦げ付きの波を受け止める備えが要ります。利根郡信用金庫の自己資本比率は9.54%で、国内基準行に求められる4%という最低ラインの倍以上を確保しています。規模が小さく、不良債権比率が高いという厳しい条件のなかで、自己資本という守りを保ちながら、地元に貸す役割を手放さない——この信金の数字からは、そうした姿勢が読み取れます。山あいの郡で金融機関が一つ残り続けることの意味は、規模の大小では測れません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
利根郡信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。利根郡信用金庫にとって、その「地元」とは、果樹・観光・林業を基盤とする利根沼田の山あいの地域経済そのものです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「山あいの郡に貸す信金」という姿を形づくっています。地区が山あいに限られるからこそ、貸し先の産業も土地の厳しさも、そのまま引き受けることになります。
借り手にとっての意味
利根郡信用金庫のように、山あいの郡で貸し続ける小さな信用金庫は、地域の果樹農家や観光業、林業の事業者にとって、ほかに代わりの少ない相手であることが多いものです。振れ幅の大きい産業の事情を知り、縮む地域でもリスクを取って貸す姿勢があるぶん、地元にとっては大切な相談先になりえます。ただし、それでも審査は審査であり、預貸率の数字だけで「借りやすさ」を測れるわけではありません。預貸率という指標の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、土地の厳しさを映す
運用益で稼ぐ信金もあれば、産業の厚い土地で大きく貸す信金もあります。そして利根郡信用金庫のように、振れ幅の大きい産業と縮む地域のなかで、小さくても守りながら貸し続ける信金もあります。不良債権比率という一つの数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな厳しさを引き受けてきたかを映す鏡です。山あいの郡の信金が示す6.23%は、危うさの表れというより、逃げずにこの地に残り続けてきたことの重みの表れと読めます。
各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。同じ群馬県でも、交通の要衝・商都に立つ高崎信用金庫と、山あいの郡に立つ利根郡信用金庫とでは、規模も地盤も違います。あわせて読むと、一つの県のなかにも、土地ごとに違う信金の姿があるとわかります。群馬県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、群馬県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
沼田市・利根沼田の地理と産業(森林・果樹・高原野菜・観光・林業)に関する記述=沼田市・群馬県の公開情報等。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=信用金庫法10条1項、および金融庁・全国信用金庫協会の公開資料等。