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稚内信用金庫 × 北洋銀行——最北の守りと、北海道最大の攻め

同じ北海道に、対照的な二つの金融機関がある。日本最北の小さな信用金庫と、道内最大の銀行。貸出の規模は、約99倍も開く。その圧倒的な落差を、制度と地理から読み解く。

ニホン銀行紀行 特集 ・ 北海道

北海道は広い。その広さは、地域金融機関の姿にもくっきりと表れる。今回並べるのは、日本最北の稚内信用金庫と、道内最大の北洋銀行。同じ北海道に根ざしながら、預金の規模で約24倍、貸出金の規模では約99倍もの差がある。同じ「北海道の金融機関」という言葉でくくるのがためらわれるほど、二つの姿は違う。

まず、数字を並べる

稚内信用金庫 × 北洋銀行(2025年3月期)
 稚内信用金庫北洋銀行
種別信用金庫第二地方銀行
預金4,644億円111,039億円
貸出金802億円79,192億円
預貸率17.3%71.3%
自己資本比率61.86%12.66%
不良債権比率4.86%1.12%
当期純利益7億96百万円183億円
店舗24店・宗谷地方中心171店・全道+道外

預金は約24倍の差。貸出金は約99倍の差。同じ北海道の金融機関とは思えない開きがある。

落差が、語りはじめる

まず倍率に注目したい。預金は約24倍の差。ところが貸出金になると、差は約99倍にまで開く。預金の差以上に、貸出の差が大きい。これは、北洋銀行が集めた預金を積極的に貸しに回し、稚内信用金庫が貸さずに手元へ残していることを物語っている。預貸率を見れば一目瞭然で、北洋71.3%に対し、稚内17.3%。北洋は預金の7割を貸し、稚内は2割に満たない。

同じ「自己資本比率」が、逆の意味を持つ

面白いのは自己資本比率だ。稚内信用金庫61.86%、北洋銀行12.66%。数字だけ見れば稚内が圧倒的に高いが、これは「稚内のほうが5倍健全」という単純な話ではない。同じ指標が、二行ではほとんど逆の意味を持っている

稚内の61.86%は、貸出を抑えて資本を厚く積み上げた「守り」の表れだ。最果ての地で、リスクを取りに行くより足元を固める設計といえる。一方、北洋の12.66%は、銀行として標準的な水準で、集めた資本を貸出という形で積極的に世の中へ回している姿を映す。資本を「貯める」のか「働かせる」のか——同じ比率の裏に、正反対の経営思想がある。不良債権比率も、稚内4.86%・北洋1.12%だが、稚内は貸出802億円と小規模ゆえ少数の焦げ付きで比率が振れやすい事情があり、額の大きい北洋とは単純比較できない。比率は規模とあわせて読む必要がある。

何で稼いでいるか

稼ぎ方も対照的だ。北洋銀行の2025年3月期の当期純利益は183億円。道内最大の銀行として、広域に貸し出した資金から生まれる資金利益が、利益の柱になっている。貸して稼ぐ、王道の銀行の姿だ。

対する稚内信用金庫の当期純利益は7億96百万円。北洋のおよそ23分の1だが、その中身が興味深い。同金庫は増益の理由を「有価証券の利回り上昇や米国債の売却益など」と説明している。地元で貸し切れない資金を運用に回し、堅実に利益を積む。貸して稼ぐ北洋と、運用と守りで稼ぐ稚内。利益の出どころからして、二行は別の道を歩いている。

なぜ、こうなったのか——制度と地理

この違いは、経営者の好みの問題ではない。制度と地理が、二つの道を分けた。

稚内信用金庫は信用金庫だ。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められている。これは「営業エリアの外に出てはいけない」という規制ではない。金融庁の金融審議会ワーキング・グループの資料が整理するとおり、「地区」とは会員になれる資格を画する地理的範囲であって、地区外との取引が禁じられているわけではない。ただ、会員資格が地区内の中小事業者や住民に絞られる結果として、融資先は実質的に地元に限られていく。そして稚内信用金庫の地元——宗谷地方を中心とする道北は、急速な人口減少に直面している。貸せる相手が構造的に細るなかで、24の店舗を宗谷地方中心に構え、貸し切れない資金を運用に回す。それが最北の信金の選んだ道だった。

北洋銀行には、この会員資格の制約がない。第二地方銀行として、相手を地区内の会員に絞られることなく、広く貸しに行ける。実際、171の店舗を札幌を中心に全道へ展開し、道外にも拠点や海外駐在員事務所を持つ。札幌という北海道経済の中心を地盤に、広域で貸す相手を見つけられる。制度が許す自由度の違いが、最北に体を置いて運用に資金を出す信金と、全道に広がって貸しに行く銀行という、二つの戦略を分けたと読める。

では、どちらが「貸す」のか

もしあなたが、北海道で事業の資金を借りる相手を探しているとしたら——この二つは、まったく別の存在として目に映るはずだ。広域に積極的に貸す北洋銀行と、地元で守りを固め運用に軸を置く稚内信用金庫。預貸率71.3%と17.3%という数字の差は、そのまま「貸す姿勢」の差を映している。

もっとも、これはどちらが優れているかという話ではない。最北の人口希薄な地で資本を厚く守る稚内の選択も、札幌都市圏を背に広く貸す北洋の選択も、それぞれの制度と地理が与えた条件のなかでの、合理的な生き方だ。同じ北海道という大地が、これほど対照的な二つの解を育てた——そこにこの土地の広さと奥行きがある。なお、稚内信用金庫そのものをより詳しく知りたい方は、稚内信用金庫の個別記事を。預貸率という数字の読み方は預貸率の読み方で、北海道の他の金融機関は北海道の地域金融機関のページでどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
稚内信用金庫の当期純利益・利益の源泉=同金庫ディスクロージャー誌「REPORT2025」(2024年度)。
北洋銀行の当期純利益(連結183億円)・店舗数(171店)・道外拠点=北洋銀行2025年3月期決算・IR資料。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

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