東春信用金庫——尾張北部のものづくりの地で、信金は何に貸すか
預貸率48.5%、不良債権比率1.58%。小牧市に本店を置く東春信用金庫。製造業が集積する尾張北部に根ざす信金が、低い焦げ付きを保ちながら地元に貸す姿を、ものづくりの土地から読みます。
愛知県小牧市に本店を置く東春信用金庫は、地元で「とうしゅん」と呼ばれる信用金庫です。預金3,071億円、貸出金1,490億円、店舗19。名古屋市の北側、尾張北部の小牧・春日井エリアを中心に根ざす信用金庫です。金庫名の「東春」は、かつてこの地域が東春日井郡と呼ばれたことに由来します。
本拠地の尾張北部は、日本有数のものづくり地域・愛知のなかでも、製造業の集積が厚い土地です。小牧市は、名神高速・中央道が分岐する交通の要衝で、自動車関連や機械、食品などの工場・物流拠点が数多く立地します。隣接する春日井市とともに、名古屋都市圏の産業を支える地域です。この、製造業が厚く集積する尾張北部という地盤が、東春信用金庫の数字を読む鍵になります。
数字の面で目を引くのは、預貸率48.5%という水準と、不良債権比率1.58%という低さの組み合わせです。
まず、数字を並べる
東春信用金庫の預金は3,071億円、貸出金は1,490億円、預貸率48.5%。自己資本比率は11.69%、不良債権比率は1.58%と低い。中小企業等向けの貸出先は8千件を超えます。
| 預金 | 3,071億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 1,490億円 |
| 預貸率 | 48.5% |
| 自己資本比率 | 11.69% |
| 不良債権比率 | 1.58% |
| 中小企業等向け貸出先 | 8,955件 |
| 店舗 | 19店 |
預貸48.5%・不良債権1.58%。ものづくりの地に根ざす信金の数字。
48.5%と1.58%を、ものづくりの地から読む
預貸率48.5%は、信用金庫として中庸の水準です。集めた預金の半分弱を貸出に回しています。そこに、不良債権比率1.58%という低さが重なります。この低い焦げ付きが、東春信用金庫の数字の特徴です。
東春信用金庫が貸す相手は、尾張北部の中小事業者です。自動車関連や機械の部品をつくる中小製造業、食品・物流、地域の商業・サービス業が、その融資先に含まれると考えられます。愛知のものづくりを底辺で支える、技術を持った中小企業が数多く集まる土地です。こうした、確かな技術と取引先を持つ製造業は、経営が比較的安定している先が多く、焦げ付きは低めに出やすい。不良債権比率1.58%という低さは、ものづくりが厚く集積する尾張北部という地盤の堅調さと、堅実な与信の積み重ねが映ったものと読めます。
一方、預貸率が48.5%にとどまるのは、製造業の中小が手元資金に余裕を持ち、必ずしも常に旺盛な借り入れ需要があるわけではないこと、また集めた預金を地域だけで貸し切れないことの表れと読めます。あふれた預金は有価証券などの運用に向かいます。自己資本比率11.69%という相応の厚みとあわせて、堅実な経営がうかがえます。もちろん、これらの比率には個別の事情や経営方針も絡むため断定はできませんが、ものづくりが厚く集積する尾張北部という土地を抜きに、この数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
東春信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。東春信用金庫にとって、その「地元」とは、製造業が厚く集積する尾張北部の地域経済そのものです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「尾張北部のものづくりを支える信金」という姿を形づくっています。
同じ愛知の、尾張の信金と並べてみる
本紀行には、同じ愛知県の尾西信用金庫も登場しています。尾西信金は、毛織物の産地として知られる尾張西部・一宮などに根ざす信金でした。尾張北部のものづくりに根ざす東春信用金庫(預貸率48.5%・不良債権1.58%)と、尾張西部の繊維の地に根ざす尾西信用金庫とを並べると、同じ尾張でも、北部の機械・自動車関連と、西部の繊維とで、それぞれの地場産業を背負って信金が地域を支えていることが見えてきます。尾張のもう一つの信金の姿は、尾西信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
地元に根ざす信用金庫は、地域の事業者にとって身近な相談相手です。とりわけ、ものづくりを担う中小製造業にとって、土地の産業を知る信金の存在は心強いものです。低い不良債権比率は地域経済の堅調さと堅実な経営を示しますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、ものづくりの地を映す
預貸率48.5%という中庸さと、不良債権比率1.58%という低さは、製造業が厚く集積する尾張北部に根ざし、確かな技術を持つ中小に堅実に貸してきた信金の姿を映しています。変動の大きい産業に向き合う信金もあれば、東春信用金庫のように堅調なものづくりの地に根ざす信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな産業に向き合ってきたかを語ります。東春信用金庫の数字は、尾張北部のものづくりを支える信金「とうしゅん」の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。愛知県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、愛知県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
東春信用金庫の地盤(小牧市本店、尾張北部・小牧春日井エリアを中心に根ざす信用金庫であること、金庫名が旧東春日井郡に由来すること)に関する記述=東春信用金庫および各種公開情報にもとづく。
尾張北部・小牧市の産業(名古屋市北側のものづくり地域、交通の要衝、自動車関連・機械・食品等の製造業・物流の集積)に関する記述=各種公開情報。
尾西信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。