口座を作ったその後
口座を開いただけでは、金融機関にとってあなたはまだ「お金を出し入れするだけの相手」です。融資の土俵に上がるには、口座を育てる時間がいります。やることは難しくありません。そして、その先で効いてくるのは、けっして担当者との仲の良さではありません。
はじめに——これは「地方の金融機関」共通の話
この記事も信用金庫を例に説明する箇所がありますが、出資金や会員制度といった信用金庫(信用組合)ならではの要素を除けば、ここで述べる手続き・心得は、地方銀行・信用金庫・信用組合のいずれでも共通するフローだと思ってください。都市銀行(メガバンク)を別にすれば、地域の金融機関との付き合い方は、おおむね同じ作法で通ります。
口座を開いただけでは、まだ何も始まっていない
事業用の口座を一つ開いた。それは大事な一歩ですが、金融機関の側から見ると、あなたはまだ「預金を出し入れするだけの相手」にすぎません。融資を考える土俵には、まだ上がっていない状態です。ここから先、口座を「育てる」という時間が必要になります。
といっても、特別なことをするわけではありません。やることは大きく二つだけです。(口座をどこで・どう開くか、信用金庫の会員や出資金の話は別の記事で扱います。ここはその次の段階の話です。)
一つめ——売上の入金を、一行に集約する
まず、売上の入金を、取引したい金融機関の口座に集めます。どこと、いくら取引しているのか。それが一つの通帳で一目に見える状態をつくることが、信用の出発点になります。入金があちこちの口座に散らばっていると、相手はあなたの商売の全体像をつかめません。取引が可視化されていることが、信用の基本条件なのです。
さらに、支払いに使う口座と、入金を受ける口座を分けておくと、相手はいっそう読みやすくなります。お金の流れが整理されて見えるからです。ただし、年商3,000万円程度までの規模の事業者は、取引の口数がよほど多くないかぎり、無理に分ける必要はありません。一つの口座に素直に集約するだけでも、十分に意味があります。
二つめ——身の丈の積立定期を、こつこつと
もう一つは、積立定期預金です。月に1万円でも、3万円でも構いません。自分の身の丈の範囲で十分です。大切なのは金額の大小ではなく、毎月こつこつと積み上げていく、継続そのものです。残高を厚くしておきたいときも、一度に大きく入れるより、こうして積み立てる形で続けていくほうが、ずっとありがたがられます。
なぜ、これが効くのか
ここが、いちばん取り違えやすいところです。多くの人が「担当者と仲良くなれば貸してもらえる」と考えます。けれども、仲良くなることが信用を作るのではありません。そもそも「仲良くなる」という発想自体が、最初のつまずきです。
忘れてはいけないことがあります。あなたはお客さん、あるいはお客さんの候補であって、同業者でも同僚でもありません。担当者とどれだけ打ち解けても、そこにはおのずと越えられない一線があります。フランクに話せる間柄になったとしても、限度があるのです。
なぜなら金融機関には、「返せない人には貸せない」という、どこまでいっても動かない大前提があるからです。あなたに怪しい点はないか、倒産のリスクはないか——それは関係の深さとは関わりなく、どこかのタイミングで必ず確かめられます。仲の良さで、その緊張感が消えてなくなることはありません。
ここで、先ほどの積立が効いてきます。たとえまだ融資を受けていなくても、毎月こつこつと積み立てているなら、そこには確かな積み重ねが残ります。相手はその通帳を見て、こう考えることができます。「この人は毎月この額を、無理なく積めている。それなら、月にこの積立額の範囲におさまる返済額なら、貸しても大丈夫だろう」。積立の記録が、そのまま返済能力の証拠になるのです。これは、親しくなっただけでは絶対に生まれてこない、数字の裏づけです。つまり、貸し手にとっては、100万円も貸せない友達と、5,000万円を貸せるまったくの赤の他人が存在する。そのことを、忘れないでください。
とりわけ信用金庫は、時代を通じて、預金を積んでもらうことに一貫して熱心な金融機関です(近ごろは金利の上昇やATM出金の増加もあって、都市銀行なども預金集めに力を入れつつありますが)。毎月こつこつ積んでくれる相手は、信用金庫にとって、本来もっとも相性のよい客なのです。そして返済能力を融資を受けもせずに実証できるという有効性は、どんな金融機関に対しても明白に効果を発揮します。
つまずきやすいところ
最後に、この段階で誰もがしやすい二つの錯覚を、あらためて置いておきます。
① 仲良くなれば貸してくれる、と思い込む。
くり返しになりますが、関係の深さは審査を免除しません。あなたはお客さん(候補)であって、同僚ではないという前提を忘れないこと。打ち解けることと、貸せると判断されることは、別の話です。
② 残高を、その場しのぎで厚く見せようとする。
審査の前に一時的に大きな額を入れても、お金の出入りの実態は通帳に残ります。効くのは見せかけの残高ではなく、毎月続いている積み重ねのほうです。
参考:信用金庫の会員制度・預金商品の一般的な取扱いについては、各信用金庫が公開する会員制度・商品案内による。