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島根中央信用金庫——神話の国で、合併を重ねた信金は何に貸すか

預貸率59.1%、預金2,939億円、不良債権比率4.25%。出雲市に本店を置く島根中央信用金庫「中央しんきん」。合併を重ねて出雲に本店を置く唯一の地域金融機関となった信金が、神話の国で貸す姿を読みます。

ニホン銀行紀行 ・ 島根県

島根県出雲市に本店を置く島根中央信用金庫は、地元で「中央しんきん」と呼ばれる信用金庫です。預金2,939億円、貸出金1,737億円、店舗21。島根県の東部から中部(出雲・石見)を営業エリアとし、出雲市に本店を置く唯一の地域金融機関として地域に根ざしています。

本拠地の出雲は、出雲大社を擁する「神話の国」。全国から縁結びを願う参拝客が訪れる門前町であり、観光がこの地の大きな柱です。一方、営業エリアの中部・石見地方は、石州瓦(せきしゅうがわら)の産地として知られた土地でもあります。赤褐色の瓦は山陰の家並みを彩ってきましたが、近年はその生産も人口減少とともに縮小が進んでいます。観光に沸く出雲と、産業の構造変化と人口減を抱える石見——この対照的な二つの顔を持つ土地柄が、島根中央信用金庫の数字を読む鍵になります。

島根中央信用金庫の歩みは、合併の連続でした。戦後まもなく島根各地に生まれた商工業協同組合を源流とし、信用金庫・信用組合へ改組したのち、1974年に大田信用金庫と旧島根中央信用金庫が対等合併、2006年には出雲信用組合と旧島根中央信用金庫が対等合併して、現在の島根中央信用金庫となりました。本店を出雲市に置き、「中央しんきん」として地域を支えています。数字の面で目を引くのは、預貸率59.1%という水準と、不良債権比率4.25%というやや高めの数字です。

まず、数字を並べる

島根中央信用金庫の預金は2,939億円、貸出金は1,737億円、預貸率59.1%。自己資本比率は8.75%、不良債権比率は4.25%。中小企業等向けの貸出先は1万322件です。

島根中央信用金庫(令和7年3月末)
預金2,939億円
貸出金1,737億円
預貸率59.1%
自己資本比率8.75%
不良債権比率4.25%
中小企業等向け貸出先10,322件
店舗21店

預貸率59.1%・不良債権4.25%。神話の国で合併を重ねた信金の数字。

59.1%と4.25%を、神話の国から読む

預貸率59.1%という、預金の6割近くを貸出に回す水準と、不良債権比率4.25%というやや高めの数字。この組み合わせは、観光と構造変化の同居する土地で、地元に貸し続けてきた信金の姿を示しています。

島根中央信用金庫が貸す相手は、出雲・石見の地元の中小事業者です。出雲大社周辺の観光・宿泊・土産の商い、石見の瓦をはじめとする地場産業、農業、地域の建設業・小売業が、その融資先に含まれると考えられます。預貸率59.1%は、本紀行で見てきた預貸率が3〜4割にとどまる地方の信金もあるなかで、預金の6割近くを貸出に回しており、地元にしっかり資金を流している方です。出雲という観光地を抱え、一定の資金需要があることがうかがえます。

一方、不良債権比率4.25%というやや高めの数字は、この土地の厳しさを映していると読めます。石見地方の瓦産業のように構造変化が進む地場産業や、人口減少・高齢化の進む地域に貸し続ければ、焦げ付きのリスクも高まりやすい。それでも、出雲に本店を置く唯一の地域金融機関として、地元の小さな事業者から逃げずに向き合ってきたことの裏返しとも読めます。合併を重ねてきたのも、人口の限られる山陰の地で、規模を確保して地域金融を絶やさないための選択だったと考えられます。自己資本比率8.75%は、地方の信金として極端に薄くはない水準で、やや高めの焦げ付きを抱えながらも経営を保ってきたことを示します。もちろん、これらの比率には個別の事情も絡むため断定はできませんが、観光の出雲と構造変化の石見という二つの顔を持つ土地を抜きに、この信金の数字は読めません。

島根中央信用金庫が示すのは、合併を重ねて山陰に根を張り、神話の国で地元に貸し続ける信金の姿です。観光に沸く出雲と、構造変化の進む石見の両方に貸しながら、やや高めの焦げ付きを抱える。59.1%と4.25%の組み合わせは、人口減の土地で地域金融を絶やすまいとしてきたことの表れと読めます。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

島根中央信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。

この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。島根中央信用金庫にとって、その「地区」は、人口減少の進む山陰の出雲・石見です。狭く人口の限られた地区で信金が経営を成り立たせるのは容易ではなく、だからこそ合併を重ねて規模を確保してきた。複数の信金・信組が一つにまとまり、出雲に本店を置く唯一の地域金融機関となった歩みは、地区に根ざして会員を支えるという信金の役割を、山陰という条件の厳しい土地で守り抜くための選択だったと読めます。

同じ「合併を重ねた信金」と並べてみる

本紀行には、合併によって生まれた信金が他にも登場しています。石川県のはくさん信用金庫は、2020年に二つの信金が合併して生まれた信金でした。島根中央信用金庫(預貸率59.1%)とはくさん信金は、いずれも人口減の進む地方で、合併によって規模を確保し、地域金融を守ろうとしてきたという、よく似た歩みを持っています。一つの信金で立ち続ける道もあれば、合併で力を合わせる道もある。両者を並べると、地方の信金が生き残るために何を選んできたかが見えてきます。もう一つの合併信金の姿は、はくさん信用金庫の記事もあわせてどうぞ。

借り手にとっての意味

地元に根ざす信用金庫は、地域の中小事業者にとって、身近な相談相手です。とりわけ、出雲に本店を置く唯一の地域金融機関として、土地の事情を知る中央しんきんの存在は、神話の国の事業者にとって心強いものです。預貸率の水準は貸出への姿勢の表れとも読めますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。

数字は、山陰の歩みを映す

預貸率59.1%という水準と、不良債権比率4.25%というやや高めの数字は、観光の出雲と構造変化の石見という二つの顔を持つ神話の国に根ざし、合併を重ねて地域金融を守り抜いてきた信金の姿を映しています。一つで立ち続ける信金もあれば、島根中央信用金庫のように合併で力を合わせる信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、どう生き抜いてきたかを語ります。島根中央信用金庫の数字は、出雲に立つ「中央しんきん」の、いまの記録です。

本紀行には、同じ島根県のしまね信用金庫も登場しています。しまね信金は、県都・松江を本拠とする出雲地方の信金でした。出雲市に本店を置くこの島根中央信用金庫(預貸率59.1%)と、松江を本拠とするしまね信用金庫(預貸率54.2%)とを並べると、同じ島根県でも、それぞれの地域を地盤とする信金が、山陰という共通の条件のなかで地域を支えていることが見えてきます。山陰のもう一つの信金の姿は、しまね信用金庫の記事もあわせてどうぞ。

各地の金融機関には、それぞれの土地と成り立ちの事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。島根県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、島根県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
島根中央信用金庫の沿革(戦後の商工業協同組合を源流とし、1974年に大田信用金庫と旧島根中央信用金庫が対等合併、2006年に出雲信用組合と旧島根中央信用金庫が対等合併、出雲市に本店を置く唯一の地域金融機関)、愛称「中央しんきん」、島根県東部から中部を営業エリアとすることに関する記述=島根中央信用金庫および各種公開情報にもとづく。
島根県(出雲)の地理と産業(出雲大社の門前町・神話の国・観光、石見地方の石州瓦、人口減少)に関する記述=各種公開情報。
はくさん信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

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