¥Today ニホン銀行紀行

長浜信用金庫——商人の町で、信金は何を守っているのか

自己資本比率19.9%、預貸率37.9%。秀吉が開いた商人の町・滋賀県長浜に根ざす長浜信用金庫。厚い自己資本と控えめな預貸率を、黒壁スクエアの観光と商業の町から読む。

ニホン銀行紀行 ・ 滋賀県

滋賀県長浜市に本店を置く長浜信用金庫は、琵琶湖の北東、湖北の地に根ざす信用金庫だ。預金3,921億円、店舗16。古くから商いで栄えた町に立っている。

長浜は、商人の町である。羽柴秀吉が大名として初めて城を構えた地で、商業の取引に課税しない楽市・楽座を敷き、多くの商人が行き交った。明治期にも経済の中心として銀行が立ち並び、その象徴である「黒壁銀行」を改装した黒壁スクエアは、いまや年間およそ200万人が訪れる、ガラス工芸と古い町並みの観光地となっている。関西・中部・北陸の結節点にあって、商業と観光が地域を支えてきた。この「商業と観光の町」という土地柄が、長浜信用金庫の数字を読む鍵になる。

この信用金庫の数字で目を引くのは、自己資本比率19.9%という厚みと、預貸率37.9%という控えめさだ。集めた預金の4割ほどしか貸出に回していない。商いの盛んな町でありながら、なぜ貸出を抑え、資本を厚く積むのか。その答えは、商人の町という土地にある。

まず、数字を並べる

長浜信用金庫の預金は3,921億円、貸出金は1,484億円、預貸率37.9%。自己資本比率は19.9%と厚い。不良債権比率は4.58%。中小企業等向けの貸出先は6,777件。

長浜信用金庫(2025年3月期)
預金3,921億円
貸出金1,484億円
預貸率37.9%
自己資本比率19.9%
不良債権比率4.58%
中小企業等向け貸出先6,777件
店舗16店

厚い自己資本と控えめな預貸率。堅実な姿を、商人の町から読む。

37.9%と19.9%を、商人の町から読む

預貸率37.9%という控えめさと、自己資本比率19.9%という厚み。この二つは、合わせて読むと一つの経営の姿を描く。集めた預金を無理に貸し込まず、手厚い資本を積んで足元を固めている。堅実を旨とする経営だ。この背景には、長浜という商人の町の事情がある。

長浜信用金庫が貸す相手の多くは、地元の中小事業者だ。そのなかには、黒壁スクエアをはじめとする観光に支えられた商店・飲食・宿泊の事業者、古くからの商いを続ける地元の商業者、そして湖北地域の中小企業が含まれると考えられる。観光や商業は、景気や人の流れに左右されやすい。一方で、商人の町には堅実な気質が根づき、無理な借り入れより堅実な経営を好む土壌もある。こうした土地では、信金もまた、無理に貸し込むより、過不足なく貸して足元を固める経営になりやすいと読める。預貸率37.9%という控えめさは、貸す力がないのではなく、商いの町の堅実さを映したものといえる。あふれた預金は運用に回りつつ、自己資本比率19.9%という厚みで備える。

不良債権比率4.58%は、際立って高いわけではないが、低いとも言いきれない水準だ。観光や商業という、振れのある産業に貸す土地の事情が、ある程度は影響していると思われる。振れに備えて資本を厚く積み、堅実に貸す——商人の町で長く地元を支えるための、手堅い経営と読める。もちろん数字には個別の事情も絡むが、商業と観光の町という土地を抜きに、この数字は読めない。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

長浜信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度がある。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められている。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれない。

この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られる。長浜信用金庫にとって、その「地元」とは、秀吉以来の商業と、黒壁スクエアに象徴される観光に支えられた湖北の地域経済そのものだ。堅実な商いの町で、手堅く貸し、厚く備えることが、この信金の生き方といえる。

借り手にとっての意味

厚い自己資本を持つ信用金庫は、経営の安定という点では安心感がある。地元の商業者や観光関連の事業者にとって、町の事情を知る信金は身近な相談相手だ。預貸率が控えめなのは慎重さの表れだが、それは堅実な経営の裏返しでもある。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理している。

数字は、町の気質を映す

自己資本比率19.9%という厚みと、預貸率37.9%という控えめさは、秀吉が開いた商人の町で、観光と商業に支えられながら、堅実に地元を支えてきた信金の姿を映している。同じ「守りの信金」でも、過疎の土地で守るのとは違い、ここには商いの町の堅実な気質がある。数字は、その金融機関が立つ土地が、どんな気質を育ててきたかを語る。長浜信用金庫の数字は、商人の町の手堅さそのものだ。

各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。滋賀県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、滋賀県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
長浜市の歴史(羽柴秀吉の城下町・楽市楽座)、黒壁スクエアの観光(明治期の銀行建築を活用したガラス工芸の観光地・年間観光客数)に関する記述=長浜市・各種公開情報。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

← ニホン銀行紀行へ | ¥Today トップへ