日田信用金庫——日本一小さな信金は、天領の水郷で何に貸すか
預貸率52.8%、預金440億円、店舗5。日田市に本店を置く日田信用金庫。預金量が日本で最も少ない信金が、天領・水郷日田で地元唯一の本店金融機関として地縁に貸す数字を読みます。
大分県日田市に本店を置く日田信用金庫は、地元で「ひたしん」と呼ばれる信用金庫です。預金440億円、貸出金232億円、店舗5。全国の信用金庫のなかで、預金量が最も少ない——つまり日本で一番規模の小さい信用金庫として知られています。日田市内と玖珠郡玖珠町に、わずか数店舗を構えるのみです。
本店のある日田市は、大分県の西部、福岡・熊本との県境に近い山あいの盆地に開けたまちです。三隈川(筑後川の上流)が市内を流れ、「水郷(すいきょう)日田」と呼ばれる美しい川のまち。江戸時代には幕府の直轄地(天領)として、九州の政治・経済の中心地のひとつとして栄え、商人のまちとして発展しました。豆田町には、いまも当時の町並みが残ります。良質な日田杉を産する林業のまちでもあり、家具づくりや、近年は「日田焼きそば」「日田温泉」でも知られます。この、天領として栄えた水郷のまちという土地柄が、日田信用金庫の数字を読む鍵になります。
日田信用金庫の歩みは、1954年の創立に始まります。前年に日田一帯を襲った大水害(昭和28年の西日本水害)からの復興を目指すなかで設立されたといわれ、まちの再建とともに歩んできた信金です。数字の面で目を引くのは、その規模の小ささと、不良債権比率6.26%というやや高めの数字です。日本一小さな信金が、何に向き合ってきたのかを、日田の土地から読みます。
まず、数字を並べる
日田信用金庫の預金は440億円、貸出金は232億円、預貸率52.8%。自己資本比率は9.76%、不良債権比率は6.26%。中小企業等向けの貸出先は3,311件です。
| 預金 | 440億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 232億円 |
| 預貸率 | 52.8% |
| 自己資本比率 | 9.76% |
| 不良債権比率 | 6.26% |
| 中小企業等向け貸出先 | 3,311件 |
| 店舗 | 5店 |
預金440億円は全国の信金で最少。日本一小さな信金の数字を読む。
52.8%と6.26%を、天領の水郷から読む
預貸率52.8%という、預金の半分を超える水準と、不良債権比率6.26%というやや高めの数字。この組み合わせは、日本一小さな信金が、狭い地区で地元の事業者と深く向き合ってきたことを示しています。
日田信用金庫が貸す相手は、日田の地元の中小・零細事業者です。日田杉を扱う林業や家具づくり、水郷の観光・温泉に関わる商い、まちの小さな商店が、その融資先に含まれると考えられます。預貸率52.8%は、預金の半分を超える額を貸出に回しており、規模は小さくとも、地元にしっかり資金を流していることがわかります。むしろ注目すべきは、預金440億円という小さな規模で、中小企業等向けの貸出先が3,311件にのぼる点です。地元に本店を置く唯一の金融機関として、銀行が相手にしにくいような小さな事業者にも、地縁を生かして深く関わってきた——リレーションシップバンキングの濃さが、この数字からうかがえます。
日田には、県内外の銀行の支店もひしめいています。大分県西部の中心都市として、規模の大きな金融機関も進出している。そのなかで、日田信用金庫は「地元に本店を置く唯一の金融機関」という立場を強みに、長い取引を通じて築いた信頼で地域を支えてきました。不良債権比率6.26%というやや高めの数字は、人口減少の進む山あいの土地で、小さな事業者から逃げずに貸し続けてきたことの裏返しとも読めます。自己資本比率9.76%は、規制上の最低基準(国内基準行は4%)は十分に上回るものの、地方の信金としては特別に厚いわけではなく、小さな体で地域を支える経営の身の丈を映しています。もちろん、これらの比率には個別の事情も絡むため断定はできませんが、天領として栄えた水郷のまちで、最も小さな器で地域に向き合う信金という姿を抜きに、この数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
日田信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。日田信用金庫にとって、その「地区」は日田市と玖珠郡玖珠町という、ごく狭い範囲です。日本一小さな信金であることは、裏を返せば、それだけ狭く小さな地区に徹して根ざしてきたということでもあります。大企業や広域の取引には手を伸ばさず、地区の中の小さな会員との相互扶助に徹する——信金という制度の原点のような姿が、日本一小さな信金には色濃く表れています。前年の水害からの復興を目指して生まれたという成り立ちも、地域とともにあることをこの信金の宿命としてきたのかもしれません。
同じ県の、もうひとつの信金と並べてみる
同じ大分県には、県都・大分市に根ざす大分信用金庫があります。大分信用金庫は、破綻した信金の事業を引き受け、厚い自己資本で守りを固めてきた信金でした。日本一小さな日田信用金庫(預金440億円)とは、規模も成り立ちも大きく異なります。同じ大分県でも、県都で破綻信金を引き受けて規模を保つ信金と、山あいの天領で最小の器を守り抜く信金とが、それぞれの土地で地域を支えている。これは優劣ではなく、それぞれの立ち位置の差です。県都の信金の姿は、大分信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
地元に根ざす信用金庫は、地域の中小事業者にとって、身近な相談相手です。とりわけ、日田のように銀行もひしめく土地で、地元に本店を置く唯一の金融機関として地縁を生かす信金は、小さな事業者にとって心強い存在です。預貸率の水準は貸出への姿勢の表れとも読めますが、それが個別の融資の可否を保証するものではありません。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、小さな器の覚悟を映す
預貸率52.8%という水準と、不良債権比率6.26%というやや高めの数字は、天領として栄えた水郷のまち・日田に根ざし、日本一小さな器で地元の小さな事業者に向き合ってきた信金の姿を映しています。規模を追う金融機関もあれば、日田信用金庫のように最小の器で地縁に徹する信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地で、どんな覚悟で地域に向き合ってきたかを語ります。日田信用金庫の数字は、三隈川の流れる天領のまちに立つ「ひたしん」の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地と成り立ちの事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。大分県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、大分県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
日田信用金庫の沿革(1954年創立、前年の水害からの復興を目指して設立)、全国の信用金庫で預金量が最も少ない(日本一小さい)信金であること、日田市・玖珠郡玖珠町を地区とすること、地元に本店を置く唯一の金融機関としてリレーションシップバンキングに取り組むことに関する記述=日田信用金庫および各種報道(日本経済新聞等)・公開情報にもとづく。
日田市の歴史と地理(三隈川・水郷日田、江戸時代の天領・豆田町の町並み、日田杉・林業・家具、温泉)に関する記述=各種公開情報。
自己資本比率の国内基準(4%)に関する記述=金融庁の公開資料にもとづく一般的な説明。
大分信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。