高鍋信用金庫——畜産と農業の町で、信金は誰に貸しているのか
宮崎県随一の規模を持つ信用金庫の預貸率は39.5%。低くもなく、高くもない。その中庸の数字は、運用に逃げず、畜産と農業の町に貸し続けてきた信金の素顔を映しています。
宮崎県の中央部、児湯郡高鍋町に本店を置く高鍋信用金庫は、地元で「たかしん」と呼ばれています。大正11年創業、預金2,834億円、店舗23、宮崎県随一の規模を誇る信用金庫です。県北から県南まで、ほぼ全県に支店網を広げています。
高鍋町を含む児湯地域は、宮崎でも有数の畜産・農業地帯です。肉用牛・豚・鶏(ブロイラー)の畜産が盛んで、宮崎は全国上位の畜産県として知られます。温暖な気候を生かした農業も広がります。この土地柄が、高鍋信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の預貸率は39.5%。集めた預金のうち、4割ほどを貸出に回している計算になります。これは、預金の1割も貸さない高知信用金庫(9.3%)や、2割に届かない稚内信用金庫(17.3%)のような「貸さない信金」とは違います。かといって、地方銀行のように7割を超えて貸しているわけでもありません。この中途半端にも見える数字を、丁寧に読んでいくと、土地の産業の姿が浮かび上がってきます。
まず、数字を並べる
高鍋信用金庫の預金は2,834億円、貸出金は1,120億円、預貸率39.5%。自己資本比率は13.34%で、信用金庫としては標準的な水準。不良債権比率は1.89%。
| 預金 | 2,834億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 1,120億円 |
| 預貸率 | 39.5% |
| 自己資本比率 | 13.34% |
| 不良債権比率 | 1.89% |
| 当期純利益 | 2億54百万円(前期比 減益) |
| 有価証券残高 | 1,083億円 |
| 店舗 | 23店・ほぼ全県 |
貸出金1,120億円に対し、有価証券も1,083億円。だが本業は、地元への貸出にあります。
運用に「逃げない」という選択
注目したいのは、有価証券の残高です。高鍋信用金庫は1,083億円の有価証券を持っていて、これは貸出金1,120億円とほぼ同じ規模にあたります。運用に軸足を移そうと思えば移せるだけの資産はあります。
しかし、同金庫の2025年3月期はそうしませんでした。決算は減収減益で、当期純利益は2億54百万円。前の期より減ったその理由を、同金庫自身が「前期に計上した債券・株式の売却益が抑制されたこと」と説明しています。裏を返せば、相場を見て有価証券を売り抜けて利益を膨らませる、という運用主導の稼ぎ方には大きく振っていないということです。本業のコア業務純益は5億83百万円を確保しており、利益の柱はあくまで地道な金融業にあります。運用で大きく稼ぐ道もありえたが、そこへは逃げず、地元に貸す本業で黒字を守った——そう読める決算です。
貸す相手は、畜産と農業の町にいる
では、その本業の貸出は、誰に向かっているのでしょうか。高鍋町を含む児湯地域は、肉用牛・豚・鶏(ブロイラー)を産する、宮崎でも有数の畜産地帯です。宮崎県は全国でも上位の畜産県として知られ、その中核のひとつがこの地域にあたります。高鍋信用金庫が貸す相手の多くは、こうした畜産・農業の事業者や、それを支える地元の中小事業者です。
ここで、預貸率39.5%という数字の意味が見えてきます。畜産や農業の資金需要は、製造業や商業とは少し性質が違います。設備投資の周期や、季節による資金の出入り、自己資金との兼ね合いなど、借入のパターンが業種ごとに異なるためです。だから、同じ信用金庫でも、貸す相手が畜産・農業中心の地域では、製造業の集積地ほどには預貸率が高く出にくい傾向があると考えられます。39.5%という中庸の数字は、貸す姿勢の強弱というより、土地の産業構造が映し出したものと読み取れます。もっとも、預貸率には地域の人口動態や同金庫の経営方針も絡むので、産業だけで決まると断じることはできません。あくまで一つの読み筋です。
不良債権1.89%が語ること
不良債権比率1.89%は、運用型の信金(高知信用金庫0.47%)と比べれば高いです。だが、これは見方を変えれば、実際に地元事業者へリスクを取って貸している証拠でもあります。貸さなければ焦げ付きは生まれません。焦げ付きの可能性を引き受けてでも地元に資金を流す——その積み重ねが、この数字に表れているとも読めます。地域に密着して貸す信金の、いわば実務の手ざわりがにじむ数字です。
畜産の町に貸すという、固有のリスク
もう一歩、この不良債権比率1.89%を、児湯地域という土地の固有の事情から読んでみたいと思います。高鍋信用金庫が貸す畜産・農業の事業者は、他の業種にはない、この地域ならではのリスクを抱えています。
ひとつは、鳥インフルエンザです。児湯郡は肉用鶏(ブロイラー)の一大産地で、高鍋町を含む児湯郡内の養鶏場でも、近年、高病原性鳥インフルエンザの発生が繰り返されてきました。ひとたび発生すれば、一つの養鶏場で数万羽単位の殺処分が行われることもあり、生産者の経営は一瞬で大きな打撃を受けます。もうひとつは、飼料価格の高騰です。畜産のコストの多くを占める飼料は輸入依存が高く、近年の価格高騰が、肉用牛や豚、鶏の生産者の収益を長く圧迫してきました。
だから、高鍋信用金庫の不良債権比率1.89%という数字は、「低いから安心」と単純には読めません。鳥インフルや飼料高という、畜産地帯ならではの逆風を抱える貸し先に、それでも貸し続けてこの水準を保っている、と読む方が実態に近いでしょう。一時的に経営が傾いた先を、不良債権にしないよう支える——そうした地元の事業者との距離の近さが、この数字の背にはあると思われます。もちろん、不良債権比率には個別の事情も絡むので断定はできませんが、畜産を基幹とする土地で貸す信金だからこそ、その数字には土地の体質が映ります。
なぜ、こうなったのか——制度と地域産業
高鍋信用金庫が地元に貸す信金であることの背景にも、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。高鍋信用金庫にとって、その「地元」とは畜産・農業を基幹とする宮崎の地域経済そのものです。会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「畜産と農業の町に貸す信金」という姿を形づくっています。同金庫は近年、宮崎銀行と事業承継支援などで連携する協定も結び、地域の事業者を支える動きを強めています。
借り手にとっての意味
高鍋信用金庫のように、地元に貸すことを本業とする信用金庫は、運用型の金融機関とは借り手への向き合い方が違います。地域の事業者の事情を知り、リスクを取って貸す姿勢があるぶん、地元の畜産・農業や中小事業にとっては相談しやすい相手になりうります。ただし、それでも審査は審査であり、預貸率の数字だけで「借りやすさ」を測れるわけではありません。預貸率という指標の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
土地の産業が、信金の顔を決める
運用益で稼ぐ信金もあれば、自己資本を厚く積んで守る信金もあります。そして高鍋信用金庫のように、土地の基幹産業に寄り添って貸し続ける信金もあります。預貸率という一つの数字は、その金融機関がどんな土地で、誰に向き合ってきたかを映す鏡です。畜産と農業の町の信金が示す39.5%は、決して中途半端な数字ではありません。
各地の金融機関には、それぞれの土地の産業と事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。宮崎県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、宮崎県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
当期純利益・経常利益・コア業務純益・減収減益の理由・有価証券残高・店舗数・沿革=高鍋信用金庫ディスクロージャー誌2025(2024年度・通期)。
宮崎銀行との連携協定=各種報道。畜産地帯に関する記述=宮崎県・各種公開情報。
児湯郡内の高病原性鳥インフルエンザ発生に関する記述=農林水産省・厚生労働省・宮崎県の公表資料等。飼料価格の高騰は公知の事実。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。