熊本銀行——預金を超えて貸す銀行は、何を映しているのか
預貸率127.2%。集めた預金を超えて貸し出すという、一見ありえない数字。その背景には、ふくおかフィナンシャルグループの一員という立場と、半導体投資に沸く熊本経済の旺盛な資金需要が重なっています。
熊本県熊本市に本店を置く熊本銀行は、九州を地盤とする第二地方銀行です。預金1兆6,692億円、貸出金2兆1,227億円。ここで、ひとつの数字に目が留まります。預貸率127.2%。集めた預金よりも、貸し出している金額のほうが多い。
熊本は、近年もっとも経済が沸いている地域のひとつです。世界最大の半導体受託製造企業・TSMCが県内菊陽町に進出し、関連企業の集積、建設、人の流入が相次いでいます。農業県としての厚みに、半導体をめぐる新しい資金需要が重なる土地です。この土地柄が、熊本銀行の数字を読む鍵になります。
預貸率は、預金のうちどれだけを貸出に回しているかを示す数字です。ふつうは100%を超えません。預金が貸出の原資だからです。それが127.2%——預金を3割以上も上回って貸しています。この一見ありえない数字の裏側を読むと、熊本銀行がどんな立場で、どんな土地に貸しているのかが見えてきます。
まず、数字を並べる
熊本銀行の預金は1兆6,692億円、貸出金は2兆1,227億円、預貸率127.2%。自己資本比率は10.75%、不良債権比率は1.54%と低い。2025年3月期の当期純利益は68億8,700万円で、前の期から49.0%の増益となりました。
| 預金 | 16,692億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 21,227億円 |
| 預貸率 | 127.2% |
| 自己資本比率 | 10.75% |
| 不良債権比率 | 1.54% |
| 当期純利益 | 68億87百万円(前期比 +49.0%) |
| 店舗 | 70店 |
貸出金が預金を4,500億円あまり上回る。その原資はどこから来るのか。
なぜ、預金を超えて貸せるのか
預金を超えて貸し出すには、預金以外の原資が要ります。熊本銀行がそれを持てるのは、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の一員だからです。FFGは、福岡銀行を中核に、熊本銀行・十八親和銀行・福岡中央銀行などを傘下に持つ、国内最大級の地域金融グループです。
こうしたグループのなかでは、資金はグループ全体で融通されます。グループ内の調達や市場からの資金、グループ会社間のやりとりを通じて、一行単体の預金量を超える貸出を支えることができます。熊本銀行の127.2%という預貸率は、「熊本銀行が単独で無理に貸しすぎている」のではなく、グループの資金力を背景に、熊本という市場へ積極的に貸し出している姿の表れと読み取れます。不良債権比率が1.54%と低く保たれているのも、攻めの貸出と健全性を両立させていることをうかがわせます。
127.2%を、熊本の経済から読む
もう一歩、この預貸率を、熊本という土地の側から読んでみたいと思います。なぜ熊本で、これほど貸出が伸びているのか。背景には、近年の熊本経済の大きな変化があります。
世界最大の半導体受託製造企業である台湾のTSMCが、熊本県菊陽町に工場を建設し、稼働を始めました。これにともない、関連企業の進出、工場・住宅・店舗の建設、人の流入が相次ぎ、熊本は全国でも有数の、資金需要が旺盛な地域になっています。設備投資のための融資、関連事業者への運転資金、不動産開発の資金——貸出の機会が、土地そのものから次々と生まれている状況です。
熊本銀行の決算でも、熊本県内での個人・法人向けの貸出が伸び、金利の上昇も加わって利息収入が増えたことが、49.0%の増益につながったと説明されています。預貸率127.2%という数字は、グループの資金力という「貸せる仕組み」と、半導体投資に沸く熊本という「貸す先のある土地」が、ちょうど重なったところに立っていますと読めます。もちろん、預貸率にはグループ内の資金配分の方針なども絡むので、土地の活況だけで決まるわけではありません。だが、貸す相手の豊富な土地でなければ、ここまで貸出は伸びません。
地方銀行と第二地方銀行、そしてグループ
熊本銀行は第二地方銀行に分類されます。第二地方銀行は、もともと相互銀行から転換した銀行が多く、地方銀行と比べると地域に密着した中小規模の取引を得意とする傾向があります。ただ、熊本銀行の場合、その性格はFFGという大きなグループの一員であることと切り離せません。グループの一行として熊本市場を受け持つという位置づけが、その経営の姿を決めています。
地域金融機関を読むとき、その銀行が単独で動いているのか、大きなグループの一員なのかを知ることは、数字の意味を正しく受け取るために欠かせません。熊本銀行の127.2%は、単独の銀行の数字としてではなく、グループと土地の両方を背負った数字として読むのが正確です。
借り手にとっての意味
預貸率が高いということは、その銀行が積極的に貸し出しているという一つの目安にはなります。ただし、預貸率の高さがそのまま「誰でも借りやすい」を意味するわけではありません。審査の基準は別にあり、貸出の中身も法人・個人・不動産などさまざまです。預貸率という数字をどう読むかは、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、立場と土地を映す
預金を集めて、その範囲で地元に貸す——多くの地域金融機関は、そうした姿をしています。だが熊本銀行の預貸率127.2%は、グループの資金力という立場と、半導体投資に沸く熊本という土地が重なった、固有の数字です。一つの預貸率の裏に、その銀行が置かれた立場と、貸す相手のいる土地の活況が、同時に映り込んでいます。
本紀行には、同じ熊本県の天草信用金庫も登場しています。天草信金は、過疎の進む天草諸島に根ざし、不良債権比率8.98%という高さを、自己資本比率20.57%という際立つ厚みで受け止める信金でした。グループの資金力を背に半導体投資に沸く熊本へ貸すこの熊本銀行(預貸率127.2%)と、離島の経済を単独で支える天草信用金庫(不良債権8.98%・自己資本20.57%)とを並べると、同じ熊本県でも、大きなグループに属する銀行と、離島の経済を単独で支える信金とで、立場も役割も大きく異なることが見えてきます。離島の信金の姿は、天草信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
各地の金融機関には、それぞれの立場と土地の事情が刻まれた、それぞれの姿があります。熊本県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、熊本県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
当期純利益・増益率・熊本県内の貸出増および利息収入増に関する記述=熊本銀行2025年3月期決算(同行発表・各種報道)。
ふくおかフィナンシャルグループの構成・グループ経営に関する記述=同グループ公開情報。
TSMCの熊本県菊陽町への進出と関連する地域経済の動向に関する記述=各種公開情報・報道。