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金沢信用金庫——百万石の城下町で、信金は何に貸しているのか

不良債権比率12.18%、預貸率38.7%。加賀百万石の城下町・金沢に根ざす金沢信用金庫。やや高い不良債権を、伝統工芸と観光という金沢の産業、そして能登半島地震の影響から読む。

ニホン銀行紀行 ・ 石川県

石川県金沢市に本店を置く金沢信用金庫は、地元で「かなしん」と呼ばれている。預金4,854億円、店舗31。北陸を代表する都市・金沢に根を張る、地域の主要な信用金庫のひとつだ。

金沢は、加賀百万石の城下町である。江戸時代、前田家のもとで花開いた文化が今も息づき、金箔・加賀友禅・九谷焼・漆器といった伝統工芸が、街のあちこちで受け継がれている。金沢市はユネスコの創造都市にも認定され、北陸新幹線の開業以降は観光客でにぎわう、全国でも指折りの観光都市でもある。この「工芸と観光の街」という土地柄が、実は金沢信用金庫の数字を読む鍵になる。

この信用金庫の数字で目を引くのは、不良債権比率12.18%という、かなり高めの水準だ。預貸率は38.7%で、集めた預金の4割ほどを貸出に回している。この二つの数字を、金沢という土地から読むと、城下町ならではの事情が見えてくる。

まず、数字を並べる

金沢信用金庫の預金は4,854億円、貸出金は1,879億円、預貸率38.7%。自己資本比率は14.32%、不良債権比率は12.18%。中小企業等向けの貸出先は1万件を超える。

金沢信用金庫(2025年3月期)
預金4,854億円
貸出金1,879億円
預貸率38.7%
自己資本比率14.32%
不良債権比率12.18%
中小企業等向け貸出先12,981件
店舗31店

預金規模に対し、不良債権比率12.18%はかなり高い。この数字を、金沢の産業から読む。

12.18%を、城下町の産業から読む

不良債権比率12.18%は、全国の信用金庫のなかでも高い部類に入る。だが、これを「危ない信金」と短絡すべきではない。金沢という土地が抱える産業の事情から読むと、別の姿が見えてくる。

金沢信用金庫が貸す相手の多くは、地元の中小事業者だ。そのなかには、伝統工芸に携わる小さな工房や事業者、そして観光に支えられた宿泊・飲食・小売の事業者が、相当数含まれていると考えられる。金箔も加賀友禅も九谷焼も、その担い手は小規模な工房が多く、後継者の確保や需要の変化という課題を抱えている。観光関連の事業も、景気や感染症の流行に左右されやすい。こうした、変動や構造的な課題を抱える事業者に貸す信用金庫では、不良債権比率が高めに出やすいと考えられる。

そして、もうひとつ見逃せないのが、能登半島地震だ。2024年初めに発生したこの地震は、石川県全体に大きな影響を及ぼした。金沢市そのものの被害は能登地域ほどではなかったものの、観光の停滞や、取引先である能登の事業者との関わりを通じて、地域経済は揺さぶられた。地元に貸す信用金庫にとって、こうした地域の打撃は、債権の質に影響しうる。不良債権比率12.18%という数字には、伝統工芸や観光という金沢の産業構造に加えて、能登半島地震の影響も及んでいると思われる。もちろん、不良債権比率には個別の大口先の事情や引当の方針も絡むため、産業や震災だけが原因とは断じられない。だが、城下町の産業を抜きに、この数字は読めない。

厚めの自己資本という、もうひとつの顔

一方で、金沢信用金庫の自己資本比率は14.32%と、信用金庫として一定の厚みを保っている。預貸率が38.7%と控えめなのも、集めた預金を無理に貸し込まず、堅実に運営している姿の表れだ。やや高い不良債権を抱えながらも、厚めの自己資本でそれを受け止める——城下町の事業者に寄り添いつつ、足元を固める経営と読める。あふれた預金は有価証券などの運用に向かい、収益を補っているとみられる。

なぜ、こうなったのか——制度と地域

金沢信用金庫が地元に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度がある。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められている。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれない。

この制度のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られる。金沢信用金庫にとって、その「地元」とは、伝統工芸と観光を抱える加賀百万石の城下町そのものだ。小さな工房や観光関連の事業者に寄り添って貸すという姿は、この土地に根ざす信金の役割といえる。

借り手にとっての意味

地元に根ざす信用金庫は、地域の事業者にとって身近な相談相手だ。とりわけ、伝統工芸の工房や観光関連の小さな事業者にとって、地元の事情を知る信金の存在は心強い。一方で、不良債権比率の高さは、その地域の事業者が課題を抱えていることの裏返しでもある。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理している。

数字は、城下町の今を映す

不良債権比率12.18%という数字は、本州の物差しで見れば高い。だが、伝統工芸と観光に支えられ、能登半島地震に揺さぶられた城下町で、地元の事業者に貸し続けてきた信金の数字としては、別の意味を帯びる。数字は、その金融機関がどんな土地で、誰に向き合ってきたかを映している。金沢信用金庫の数字は、加賀百万石の城下町の今そのものだ。

本紀行には、同じ石川県の興能信用金庫も登場している。興能信金は、能登半島の奥能登に根ざし、能登半島地震の復興のただ中で地域を支える信金だ。加賀百万石の城下町・金沢に根ざすこの金沢信用金庫(預貸率38.7%)と、奥能登に根ざす興能信用金庫(預貸率50.5%)とを並べると、同じ石川県でも、商業の集まる都市・金沢と、人口減少と災害の課題を抱える能登とで、信金の置かれた状況が大きく異なることが見えてくる。能登の信金の姿は、興能信用金庫の記事もあわせてどうぞ。

各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方がある。同じ金沢を本店としながら、金沢以南の製造業を地盤にやや積極的に貸すはくさん信用金庫と並べると、同じ県都を拠点にしながら、城下町の伝統工芸に向き合う信金と、県南の製造業に向き合う信金という、貸し先の違いが見えてくる。石川県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、石川県の地域金融機関のページもどうぞ。

出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
金沢の伝統工芸(金箔・加賀友禅・九谷焼・漆器等)およびユネスコ創造都市・観光に関する記述=金沢市公開情報・石川県公開情報・各種公開情報。
能登半島地震による石川県への影響に関する記述=各種公的資料・公開情報。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。

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