淡路信用金庫——玉ねぎと観光の島で、信金はなぜ貸さずに守るのか
預貸率33.3%、自己資本比率21.55%。洲本市に本店を置く淡路信用金庫。玉ねぎと観光で知られる淡路島に根ざす信金が、預金の3割しか貸さず資本を厚く積む数字を、島という土地から読みます。
兵庫県洲本市に本店を置く淡路信用金庫は、地元で「あわしん」と呼ばれる信用金庫です。預金6,092億円、貸出金2,026億円、店舗27。瀬戸内海に浮かぶ淡路島を、まるごと地盤とする信用金庫です。
本拠地の淡路島は、兵庫県に属する瀬戸内海最大の島です。全国に知られる「淡路島たまねぎ」をはじめとする農業、瀬戸内の水産業、そして温暖な気候と明石海峡大橋を生かした観光——一次産業と観光が経済の柱です。本州とは明石海峡大橋、四国とは大鳴門橋で結ばれ、人とモノが行き交いますが、島であるという地理的なまとまりが、経済にも独特の性格を与えています。この、島という土地が、淡路信用金庫の数字を読む鍵になります。
この信用金庫の数字は、二つの点で際立っています。ひとつは預貸率33.3%——集めた預金の3分の1ほどしか貸出に回していない低さ。もうひとつは自己資本比率21.55%という、信用金庫としては際立った厚みです。なぜ、これほど貸さず、これほど資本を積むのか。その答えは、島という土地にあります。
まず、数字を並べる
淡路信用金庫の預金は6,092億円、貸出金は2,026億円、預貸率33.3%。自己資本比率は21.55%と厚い。不良債権比率は3.13%。中小企業等向けの貸出先は9千件を超えます。
| 預金 | 6,092億円 |
|---|---|
| 貸出金 | 2,026億円 |
| 預貸率 | 33.3% |
| 自己資本比率 | 21.55% |
| 不良債権比率 | 3.13% |
| 中小企業等向け貸出先 | 9,742件 |
| 店舗 | 27店 |
預貸率33.3%・自己資本21.55%。貸さず、厚く積む。その姿を島から読む。
33.3%と21.55%を、島という土地から読む
預貸率33.3%という低さと、自己資本比率21.55%という厚み。この二つは、合わせて読むと一つの経営の姿を描きます。集めた預金の多くを貸出に回さず、有価証券などの運用と、厚い自己資本にあてている。守りを固める信金の姿です。その背景には、淡路島という土地の事情があります。
淡路信用金庫が貸す相手は、島内の中小事業者と個人です。玉ねぎをはじめとする農業の関連事業者、水産業、観光関連の旅館・飲食、地域の商業、そして個人の住宅ローンが、その融資先に含まれます。だが、島という地理的に限られた経済圏では、貸出を大きく伸ばせる優良な借り手の数はおのずと限られます。島内には預金が潤沢に集まるものの、それに見合うだけの資金需要が島の中にあるわけではない。あふれた預金が運用に向かい、預貸率が33.3%にとどまるのは、限られた経済圏を地盤とする島の信金の構造的な姿と読めます。
自己資本比率21.55%という厚みは、こうした土地で安定を保つための備えと読めます。一次産業や観光は天候・災害・景気に左右されやすく、島という経済圏は外的な変動の影響も受けやすい。そうした不確実性に耐えるため、資本を厚く積んで揺らがない基盤を築く。不良債権比率3.13%は、一次産業や観光に貸す信金として、特別に高くも低くもない水準です。もちろん、これらの比率には個別の事情や経営方針も絡むため断定はできませんが、島という限られた経済圏を地盤とすることを抜きに、この数字は読めません。
なぜ、こうなったのか——制度と地域
淡路信用金庫が地元の中小事業者に貸す信金であることの背景には、信用金庫という制度があります。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その資格は信用金庫法10条1項により、信用金庫の定める「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人、と定められています。事業者には規模の制限もあり、大企業は会員になれません。
この枠のもとでは、貸す相手はおのずと地元の中小事業者や住民に絞られます。淡路信用金庫にとって、その「地元」とは、玉ねぎと観光を芯とする淡路島そのものです。島という地理的なまとまりと、会員資格が地区内に絞られるという制度の枠が、結果として「島の経済に貸す信金」という姿を形づくっています。
同じ兵庫の、地方部の信金と並べてみる
本紀行には、同じ兵庫県の但馬信用金庫も登場しています。但馬信金は、兵庫県北部・日本海側の但馬地方に根ざす信金でした。瀬戸内海の島に根ざす淡路信用金庫(預貸率33.3%・自己資本21.55%)と、日本海側の但馬に根ざす但馬信用金庫とを並べると、同じ兵庫県でも、瀬戸内の島と日本海側の地方部とで、それぞれの土地の事情を抱えながら信金が地域を支えていることが見えてきます。神戸・阪神という大都市を抱える兵庫県の、もう一つの顔——地方部の信金の姿は、但馬信用金庫の記事もあわせてどうぞ。
借り手にとっての意味
厚い自己資本を持つ信用金庫は、経営の安定という点では安心感があります。一方、預貸率が低めであることは、新たな貸出には慎重な面があるとも読めます。ただし、島の農業・観光・商業を営む事業者にとって、土地の事情を知る信金は身近な相談相手です。預貸率という数字の読み方は、預貸率の読み方であらためて整理しています。
数字は、島の経済を映す
預貸率33.3%という低さと、自己資本比率21.55%という厚みは、玉ねぎと観光の島・淡路に根ざし、限られた経済圏のなかで守りを固めて地域とともに歩んできた信金の姿を映しています。資金需要のあふれる土地の信金もあれば、淡路信用金庫のように島という限られた経済圏で守りを固める信金もある。数字は、その金融機関がどんな土地に立っているかを語ります。淡路信用金庫の数字は、玉ねぎと観光の島を支える信金「あわしん」の、いまの記録です。
各地の金融機関には、それぞれの土地の事情が刻まれた、それぞれの生き方があります。兵庫県の他の金融機関とあわせて眺めたい方は、兵庫県の地域金融機関のページもどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率・中小企業等向け貸出先件数=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末(預貸率は貸出金÷預金で算出)。
淡路信用金庫の地盤(洲本市本店、淡路島を地盤とすること)に関する記述=淡路信用金庫および各種公開情報にもとづく。
淡路島の産業(淡路島たまねぎ等の農業、水産業、明石海峡大橋・大鳴門橋、観光)に関する記述=各種公開情報。
但馬信用金庫の位置づけ=各種公開情報および本紀行既出記事。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。