愛媛銀行 × 高知信用金庫——貸す動機は、どちらにあるか
預金は約2.9倍の差なのに、貸出金は約24倍の差。四国の対照的な二行の落差は、何を物語っているのか。「貸す動機の有無」という補助線で、公開データを読み解く。
四国に、対照的な二つの金融機関がある。愛媛県の愛媛銀行と、高知県の高知信用金庫。どちらも地域に根ざした金融機関だが、決算書を並べると、不思議な数字の食い違いに気づく。
預金の規模は、愛媛銀行が高知信用金庫の約2.9倍。3倍に満たない差だ。ところが貸出金になると、その差は一気に約24倍に開く。預かっているお金の量はそれほど変わらないのに、貸している量はけた違い。この落差は、いったい何を物語っているのか。二行を、性格の違う二人の旅人になぞらえて読み解いてみたい。
まず、数字を並べる
絶対値から見ていく。愛媛銀行は預金25,477億円に対し貸出金19,826億円。預金の8割近く、預貸率にして77.8%を貸出に回している。一方の高知信用金庫は、預金8,730億円に対し貸出金は813億円。預貸率はわずか9.3%。預かったお金の一割も貸していない。
| 愛媛銀行 | 高知信用金庫 | |
|---|---|---|
| 種別 | 第二地方銀行 | 信用金庫 |
| 預金 | 25,477億円 | 8,730億円 |
| 貸出金 | 19,826億円 | 813億円 |
| 預貸率 | 77.8% | 9.3% |
| 自己資本比率 | 8.10% | 56.02% |
| 不良債権比率 | 1.73% | 0.47% |
| 当期純利益 | 約57億円 | 119億円 |
| 店舗・拠点 | 実質84拠点・8県 | 26店・高知市中心 |
預金は約2.9倍の差。貸出金は約24倍の差。同じ「地域金融機関」とは思えない開きがある。
落差が、語りはじめる
もう一度、倍率に注目してほしい。預金は2.9倍の差しかないのに、貸出金は24倍の差。この食い違いそのものが、二行の性格を語っている。愛媛銀行は、集めた預金をどんどん貸しに回している。高知信用金庫は、集めても貸さずに手元に残している。同じ土俵に立っているようでいて、やっていることはまるで逆なのだ。
では、貸している愛媛銀行のほうが危うく、貸さない高知信用金庫のほうが健全なのか。不良債権比率を見ると、一見そう読めてしまう。愛媛銀行は1.73%、高知信用金庫は0.47%。焦げ付きの比率は、愛媛銀行が約3.7倍高い。数字の表面だけなら、高知信用金庫に軍配が上がりそうだ。
規模で割り戻すと、見え方が変わる
ところが、ここで貸出の「規模」を思い出してほしい。愛媛銀行は高知信用金庫の24倍もの額を貸している。24倍も貸していれば、焦げ付きの比率も相応に膨らんで不思議はない。にもかかわらず、不良債権比率の差は約3.7倍にとどまっている。24倍の貸出規模を抱えて、焦げ付きの比率は4倍弱で収まっている——これは、貸した規模のわりに焦げ付きの増え方が抑えられている、と読める。
ここからは推論になるが、愛媛銀行は、融資先を不良債権にしないための支援体制を備えていることが読み取れる。貸したあとも取引先を見守り、つまずきそうなところを支える。そうした実務の積み重ねがなければ、これだけの規模を貸して比率を抑えるのは難しい。もっとも、不良債権比率は業種の構成や地域経済、引当の方針などさまざまな要素が絡むので、断定はできない。あくまで数字から読める一つの筋として受け取ってほしい。
「貸す動機」は、どこから来るか
もう一段、深く読んでみる。当期純利益を見ると、愛媛銀行は約57億円。高知信用金庫は119億円で、愛媛銀行の倍以上を稼いでいる。利益でいえば、貸さない高知信用金庫のほうがはるかに大きい。その源泉には有価証券運用益が寄与している。貸さずとも、運用で十分に稼げているのだ。
ここに、二行の決定的な違いがある。高知信用金庫は、貸さなくても運用で倍の利益を出せる。とすれば、無理をして貸しに行く動機は薄い。一方の愛媛銀行は、利益が高知信用金庫の半分以下でありながら、預金の8割近くを貸しに回している。融資先を探し続けなければ、この決算すら維持できない構造だと読める。言いかえれば、愛媛銀行には貸す動機が強くあり、高知信用金庫には貸す動機が薄い。
同じ預貸率の低さでも、意味はまるで違う。高知信用金庫の9.3%は「お金が余っていて借りやすい」のではなく、「貸す動機が薄い」ことの表れと読める。このあたりの読み方は預貸率の読み方でも整理しているので、あわせて読んでほしい。
なぜ、こうなったのか——制度と地理
二行がここまで違う道を歩んだのは、性格の問題ではない。制度と地理が、それぞれの生き方を決めたといったほうが近い。
高知信用金庫は信用金庫だ。信用金庫が融資できる相手は原則として「会員」に限られ、その会員になれる資格が信用金庫法10条1項で定められている。会員になれるのは、信用金庫の「地区」の中に住所や事業所がある人、その地区で働く人。さらに事業者には規模の制限があり、大企業は会員になれない。ここで誤解しやすいのだが、これは「営業エリアの外に出てはいけない」という規制ではない。金融庁の金融審議会ワーキング・グループの資料でも整理されているとおり、「地区」とは会員になれる資格を画する地理的範囲であって、地区外との取引が一切禁じられているわけではない。ただ、会員資格が地区内の中小事業者や住民に絞られる結果として、融資先は実質的に地元に限られていく。高知信用金庫の店舗が26店、その多くが高知市内に集まり県外に店舗を持たないのは、この制度と無縁ではない。そして高知県は人口減少が著しく、地元の借り手は構造的に細っていく。
対して愛媛銀行は第二地方銀行で、信用金庫のような会員資格の制約がない。だから県境を越えて貸しに行ける。実際、拠点は実質84にのぼり、地元の愛媛だけでなく、四国の高知・香川・徳島、瀬戸内の広島・岡山・大分、さらに大阪・東京まで、8県に展開している。貸す相手を広く外へ求められる——この自由が、預金の8割を貸しに回す戦略を支えている。
つまり、高知信用金庫は地元に資金を貸し切れないぶん、お金を運用に出して外で働かせる道を選んだ。愛媛銀行は会員資格に縛られないぶん、自らが県境を越えて貸しに行く道を選んだ。制度が許す自由度の違いが、二つの戦略を分けたのだと読める。高知信用金庫の歩みをもっと詳しく知りたい方は、高知信用金庫の個別記事もどうぞ。
では、貸す動機があるのはどちらか
ここまで読んできて、最初の問いに戻りたい。預金は3倍弱の差なのに、貸出は24倍の差。その落差の正体は、「貸す動機の有無」だった。
もしあなたが、これから事業の資金を借りる相手を探しているとしたら——貸す動機が強いのは、どちらだろうか。運用で倍の利益を出せて、無理に貸す必要のない金融機関か。それとも、利益が半分以下でも融資先を探し続けなければならない金融機関か。答えは、どちらが優れているかという話ではない。制度と地理がそれぞれに与えた条件の中で、二行はそれぞれの合理を生きている。ただ、その条件の違いが、借り手から見たときの「貸す動機」の濃淡を生んでいる。
預貸率という一つの数字も、低ければ借りやすいとは限らない。その裏にある事情まで読みにいけば、同じ数字がまったく違う意味を見せてくれる。愛媛銀行と高知信用金庫は、それを教えてくれる格好の二人の旅人だ。それぞれの土地の事情は、愛媛県の地域金融機関・高知県の地域金融機関のページもあわせてどうぞ。
出典:預金・貸出金・預貸率・自己資本比率・不良債権比率=金融庁「中小・地域金融機関情報一覧」令和7年3月末。
当期純利益=各行2025年3月期決算(愛媛銀行IR/高知信用金庫発表・報道)。
店舗・拠点網=各行公式店舗一覧、および愛媛銀行の拠点数・展開県はWikipediaも参照。
信用金庫の地区・会員資格に関する記述=金融庁 金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」資料『協同組織金融機関の「地区」のあり方』(2008年6月20日・神吉正三)。